【村井敏邦の刑事事件・裁判考(90)】
再審請求と前審関与
 
2019年11月11日
村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)
 通常審では、前審に関与した裁判官は除斥の対象となります(刑訴法20条7号)。それは、前審に関与した裁判官が同一事件についての後の裁判でも関与することは、すでに心証を形成していることによって、公平な判断ができないということで、そのような裁判官は後の裁判に関与してはならないということです。
 ところが、大崎事件では、2次再審請求の裁判に関与した裁判官の一人が第3次再審請求においても関与していました。再審については、前審関与についての規定は存在しません。また、再審の請求をもつて不服を申し立てられた裁判に関与した裁判官が再審の裁判に関与することが、民事訴訟法第35条第6号にいう前審の関与にあたるかが争われた事件では、最高裁判所は、「民訴法35条6号にいわゆる前審の裁判とは、当該事件について直接または間接に下級審のなした裁判を指称し、再審請求をもつて不服を申し立てられた裁判に関与した裁判官が右再審の裁判に関与する場合のごときは、同号にあたらないと解するのを相当とする(大審院昭和18年6月22日判決、大審院民集22巻14号551頁、最高裁昭和34年2月19日第一小法廷判決、刑集13巻2号179頁参照)。」(最高裁判所第二小法廷昭和39年9月4日判決)としています。
 この判例が引用している昭和34年2月19日第一小法廷判決は、「刑訴20条7号にいわゆる前審の裁判とは、上訴により不服を申し立てられた当該事件のすべての裁判を指称するものであつて、再審は上訴の一種に属しないのであるから、被告人Aに対する窃盗、詐欺、強盗殺人、同未遂、銃砲刀剣類等所持取締令違反被告事件の確定判決となつた第一審の審理に関与した裁判長裁判官池田惟一、裁判官田上輝彦、裁判官藤原寛が、さらに本件再審請求事件の審理に関与しても、前審の裁判をした裁判官として再審請求事件の審理手続より除斥されるものではない。」としています。

 このように、再審請求については、同じ裁判官が何度も同一事件の再審請求にかかわっても、除斥されることはないというのが、判例の態度です。実質的に考えた場合、一度再審請求についての判断に加わった裁判官が、二度目にはまったく違った判断をするとは思われません。また、事件は同じなのに、その都度違った判断をするとすれば、その裁判官の判断に対しての信頼性も疑われるでしょう。
 事件について、除斥事由には当たらないが、公平な判断ができないと考えられる裁判官を手続き関与から外す制度には、除斥のほかに、忌避、回避があります。再審請求については、除斥と同様、忌避と回避の規定もありません。しかし、形式的な除斥事由に当らない場合に、実質的に見た場合、事件について公平な判断をしないおそれがある考えられる人物を手続き関与から外す制度ですから、規定がないからという形式的な理由で、そのような制度の適用を認めないというのは、適当でありません。
 とくに、回避については、事件について予断を持っているために公平な判断ができないおそれがあると思う場合には、裁判官みずからの判断として、手続への関与を避けるというものですから、再審請求についても、そのようなことがあるべきでしょう。
 大崎事件で第2次再審請求に関与した裁判官は、その出身が検察官でした。検察官だから不公平な判断をするとはいえませんが、再審請求は検察官が訴追して、有罪確定まで訴訟追行を行った事件についての有罪判断の再審理を求める行為です。検察官が再審請求に対して厳しい態度をとる可能性があることは、通常、予想されるところです。その上に、すでに同一事件の再審請求の判断をしたことがあるということになると、公平な判断はされないだろうと予測されます。そのよう予測が立つ人物としては、自ら手続き関与を回避するのが、公平であるべき裁判官としてのあるべき姿ではないでしょうか。
 大崎事件では、弁護人からの回避も申立ても行われていません。この点は、弁護側のミスでしょう。弁護人としては、裁判所がたとえ認めないとしても、除斥、または忌避の申立てをすべきであったように思います。
 
【村井敏邦さんプロフィール】
一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授を経て、現在一橋大学名誉教授。法学館憲法研究所客員研究員。