【村井敏邦の刑事事件・裁判考(49)】
ドローン禁止法案と威力業務妨害罪の適用
 
2015年7月27日
村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)
ドローンを巡る状況

 本年5月9日、善光寺の御開帳を上空から撮影していたドローンが行列の中に落ちました。けが人はでなかったようですが、その後、善光寺では、掲示を出してドローンによる御開帳の撮影を禁止しました。
 首相官邸屋上にも、墜落していたドローンが発見されました。
こうしたことを契機として、自民党、公明党、維新の党は、議員立法として、重要施設等の上空におけるドローンの飛行を禁止する法案(「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律案」)を提出し、7月9日、この法案は衆議院を通過しました。
 これとは別に、政府は、7月14日の閣議で、住宅密集地や空港でのドローンの飛行を禁止する航空法の改正案を今国会に提出することを決定しました。
 このようなドローン飛行禁止の動きは地方にもあって、鳥取県は、5月21日、県内の都市公園などでの飛行を禁止すると発表しました。そこでは、ドローンだけではなく、模型飛行機の飛行も禁止されています。
 なお、善光寺の御開帳を撮影し、ネット配信していた15歳の少年は、その後、ネット上で、三社祭の会場に行くという表明をして、本年5月21日、威力業務妨害で逮捕されました。
 以上の動きで、何が問題かを考えてみましょう。

ドローンの飛行を禁止する法案について

 衆議院を通過したドローン飛行禁止法案は、その目的として、「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行を禁止することにより、これらの施設に対する危険を未然に防止し、もって国政の中枢機能等及び良好な国際関係の維持に資すること」を掲げています。
 国会議事堂度の他の重要施設および周辺地域の上空をドローンが飛行することが、「これらの施設に対する危険」をもたらすということですが、どのような危険なのでしょうか、必ずしも明確ではありません。「国政の中枢機能等及び良好な国際関係の維持に資する」としているところをみると、単なる落下による危険を問題にしているのではないようです。いくつかの想定ができます。まず、爆弾等の武器を搭載したドローンは、それ自体危険な武器になり、国会議事堂等を攻撃する危険があるということが考えられます。
 実は、特定秘密保護法では、無人飛行機を武器として、その秘密を特定秘密にしています。国は、ドローンが武器として使用されることを予定しているのです。
 こうした直接的な武器としての使用ではなくても、重要施設および周辺地域の上空からの撮影によって、その中で行われている会議や人の出入りがわかり、国および外国の重要な秘密が撮影者にわかるという危険性があります。このような事態は、特定秘密保護法が想定していたことを超えているので、とくに法律を設ける必要があると、提案者は考えたのかもしれません。
 ドローンが墜落することによって、施設や人に当たって損害を与える危険があります。ただ、これは必ずしも重要施設等に限ったことではありません。落下することによって、国会の審議への影響が考えられますが、一時に大量のドローンが墜落したということがない限り、施設内の会議等の進行に直接の影響が出るということは、あまり考えられません。
 飛行が禁止される対象施設等は、国会議事堂、議員会館、内閣総理大臣官邸等、最高裁判所の庁舎、政党事務所等、皇居等の国の重要施設、外国大使館等の外国公館です。
飛行禁止に違反してドローンを飛行させた場合には、懲役1年または50万円以下の罰金に処せられることになっています。現に飛行させた場合だけではなく、禁止対象地域で退去等の警察官の命令に違反した場合も、同様の罰則が定められています。
 この法案の真の狙いはどこにあるのでしょう。現在法案化が検討されている航空法改正と併せて、単なるドローン対策ではなく、仮想敵からの攻撃に予め備えるという、いわば「平時における軍事立法」のにおいを感じるのですが、これは私だけの取り越し苦労でしょうか。

三社祭と少年の言動

 三社祭に行くということをネット上で一般に配信したことだけでは、犯罪とならないことは明らかです。三社祭でドローンを飛ばすといったという場合はどうでしょう。この時点では、ドローンを飛ばすこと自体が禁止されていませんから、この発言はとくに違法なことをするという表明ではありません。
 警察は、威力業務妨害罪を適用して少年を逮捕しました。ドローンを飛ばすことを予告したので、三社祭の主催者は、その対策のためにいろいろな措置を取らなければならなくなったというのが、威力妨害に当たるというのです。しかし、ドローンを飛ばすということが、業務を妨害する「威力」に当たるでしょうか。ドローンを三社祭の会場に落とすということならば、そうなるでしょう。しかし、単に飛行させるというだけでは「威力」には当たらないでしょう。
 「しかし、主催者側は万一に備えて対策を立てざるを得なかった。これは業務妨害ではないか」という反論が考えられます。しかし、万一の不測の事態に備えるというのは、主催者側が当然行うべきことです。
 いずれにしても、威力妨害罪による逮捕というのは、かなり乱暴なことです。

よく使われる威力業務妨害罪

 威力妨害罪という罪は、労働運動や学生運動との関係で、よく適用された時期があります。現在でも、原発反対行動などにこの罪が適用されている例があります。福島の原発事故で放射能に汚染した廃棄物の処理場建設に反対する人たちが、処理場建設の住民説明会に抗議のために主催者側に詰め寄る等の行為をしたということで、威力業務妨害罪が適用されたのです。
 このように、威力妨害罪は意見の対立のある事柄について、政府、地方自治体、企業などのその事業推進派に対する反対派の人々の行動に適用されることが多い罪です。その点で、表現の自由との抵触が問題になる罪です。
 ドローンを飛行させて上空からの映像を配信するという行為も表現行為です。そのことによって地上の人々や組織のプライバシー侵害があり得るので、主催者側の了解を取ったうえで行うべきだとも考えられますが、了解なしで行ったとしても、祭りの状況の映像という限りにおいては、違法とはいえないでしょう。
 墜落の危険が相当程度高いという場合には、そのことを承知したうえで飛行させたということならば別ですが、今回の行為にはそのような危険の高さと危険認識があったということはできないでしょう。
 気になるのは、少年を逮捕した警察側の逮捕動機です。マスコミでは、警視庁刑事部の幹部は「業務妨害罪の適用は最後の手段。別の容疑がない場合、『広い意味で何らかの被害を受けた』として立件するケースがあり、カバー範囲は広い」と説明したと伝えています。
 この発言は、威力妨害罪運用の実態を正直に伝えていますが、大変危険な発言です。「逮捕理由が明確にない場合には、この罪を適用する」といっているに等しいのです。しかし、このような形で刑法の規定を適用し、逮捕・勾留するというのは、権力の乱用です。威力業務妨害罪の適用には、よほど慎重になってもらいたいものです。
 
【村井敏邦さんプロフィール】
一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授を経て、現在一橋大学名誉教授。法学館憲法研究所客員研究員。