夜間定時制高校での法教育の取り組み  
2014年7月14日
森 香苗さん(司法書士)
 司法書士法教育ネットワークでは、例年6月の定時総会時に、様々な法教育に関するテーマで記念研究会を開催しています。2014年は、「学校と社会をつなぐ法教育 〜私たちはなぜ、法教育に取り組むのか〜」を開催しました。

 私は、この研究会で、東京都立小山台高校定時制の学校設定科目「社会参加」における、東京司法書士会の連続授業の取り組みについて、角田仁教諭とともに報告をしました。

 定時制というと、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。かつては勤労青年が通うための学校としての役割を担っていましたが、現在は多様化しており、低学力、不登校、不本意入学、高校中退の受け入れ、成人の再入学、外国につながる生徒、ひとり親家庭の生徒、貧困の家庭の生徒等、いわば教育セーフティネットの役割を担っています。そして、様々な理由で中退していく生徒が多く、入学後、定時制課程4年間が終わる頃には約45%は中退していくという現実があります。(※定時制の現状は後掲参考図書に詳しい。)
 
  ※画像をクリックすると詳細が表示されます

 このような現状の中で、「中退していく生徒を減らすことはできないのか」「明日、退学するかもしれない生徒に何を伝えたらよいのか」「これだけは知って欲しい、将来かならず役に立つかもしれない、それは何か?」という問題意識をもち、角田教諭は「社会参加」の授業に取り組んでこられました。
 東京司法書士会では、この「社会参加」の授業に講師を派遣し、2013年は「憲法」「消費者保護」「労働者保護」「福祉」の4つのテーマで連続授業を行いました。実際に授業を作り上げるにあたっては、学校の要望、生徒の抱える問題、司法書士の視点等を持ち寄り、詳細な打合せを行いました。小山台高校定時制には、他の定時制高校と同様多様な生徒が存在しますが、特に外国につながる生徒が多い(15か国、全体の20%)という特徴があります。よって、できる限り平易な言葉づかいとし、熟語はなるべく使わない、教材にはすべてルビを振るなどの配慮をしました。(具体的な授業内容の実践報告については、ここでは割愛します。)

 われわれ司法書士が学校で法教育を行うのは、子どもたちに、次にあげるような力・知識を養ってほしいという思いがあるからです。
 私たちは、日々生きていくうえで様々な出来事に遭遇し体験しますが、それらのうち何か法的考察を必要とするような体験をしたときには、この体験の意味を調べることができ、そして、それが問題であり自分で解決しにくいものであるならば、「適切な相手」に「適切な時期(問題が悪化しないうち)」に相談に行くことができる力が必要になります。しかし、相談するためには、まずはその体験に何か問題があるということに気付く必要があるため、気づくことができるための最低限の知識はもっておかなければなりません。また、いざ相談をする場面においては、自分の体験をしっかりと「言語化」して相手に伝えなければなりません。さらに、解決に向けて「自分の意見」を形成する力も必要になってきます。

 法教育の目指す「市民」を育てるためのプロセスには、様々なものがあると思います。私たちは、こらからも、さまざまな立場の方々と連携をとり模索しながら、法教育を実践していく必要があると考えています。


※定時制の現状を知る参考図書
 「若者たち-夜間定時制高校から視えるニッポン」瀬川正仁 バジリコ

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【森香苗さん(東京司法書士会)のプロフィール】
現在、東京司法書士会 法教育委員会、日本司法書士会連合会 法教育推進委員会などに所属