変わりつつある刑事裁判 〜裁判員裁判導入をきっかけとして〜  
2012年9月24日
安田弘光さん(弁護士)

 裁判に一般国民が参加する裁判員裁判が始まって、もうすぐ3年になろうとしています。この間、奈良でも多くの事件が裁判員裁判で審理されました。私も、現在進行中のものも含めて2件裁判員裁判を担当しています。裁判員裁判の導入をきっかけとして、刑事裁判は、大きく変わろうとしていると感じています。

旧来型の「調書裁判」の問題点

 これまでの刑事裁判では、捜査の段階で作られた供述調書を中心とした「調書裁判」が行われてきました。
 刑事事件が発生した場合、警察・検察官などの捜査機関は、裁判前に関係者の取り調べを行い、供述調書を作成します。
 この供述調書は、取調室という完全な密室の中で作成されます。また、取り調べは、捜査機関の質問に、被疑者が答える、という形で行われますが、調書は「問い」と「答え」をそのまま記載するのではなく、捜査機関の方で物語にまとめて作成されます。その結果、論理的で理路整然とした文章で書かれた供述調書が出来上がります。
 供述調書に関しては、取調官に脅されて不本意ながら調書に署名した、とか、被告人の述べたこととニュアンスが違うことが書かれている、といったことがしばしば起こります。ところが、従前の裁判では、こういった被告人の主張をほとんど認めてこず、不本意に作成された供述調書を信用できるものと取り扱ってきました。

「調書裁判」に対する裁判員の評価

 裁判員裁判では、裁判官の裁判と比較して、こういった供述調書の信用性について、消極的評価をされることが多いようです。私が担当した事件でも、法廷での被告人の供述態度等を重視して、捜査段階での供述調書は十分に信用できるものではないと判断されました。従前の裁判官だけの裁判であれば、このような結論にはならなかったはずです。
 供述調書は、理路整然と論理的な文章で書かれているものですが、「一般の人がそのような論理的な文章を書くことが困難である」ということを裁判員の方がよく理解されている、というのが理由だと思います。また、特に、大阪地検特捜部の証拠偽造事件以降、警察・検察に対する信頼が一般国民の目から見て低下していることも背景にあると考えられます。

今後の刑事裁判

 従来型の裁判では、供述調書が作成される取り調べの段階で裁判の結論はほぼ出ており、法廷で行われるやりとりは単なる儀式といったイメージで捉えられることが多かったと思います。
 しかし、裁判員裁判の導入をきっかけに、調書裁判から決別し、「法廷でのやりとりをもとに裁判を行う」という本来あるべき姿に変わりつつあると感じています。


*この論稿は安田弘光弁護士が所属している奈良弁護士会所属の「弁護士法人・やまと法律事務所」のWEBサイトに2012年9月5日付けで掲載したもので、ご承諾いただき転載させていただきました。