えん罪被害者のこと −布川事件から感じること(その2)  
2012年5月28日
桜井恵子さん(布川事件えん罪被害者・桜井昌司さん夫人)

前回からの続き>

―――恵子さんは布川事件の裁判に接する中で、裁判所、あるいは裁判官に対していろいろな印象をお持ちになったかと思います。以前とは異なる、あらたな発見もあったのではないでしょうか。

(桜井恵子さん)
 私は以前、労働者の不当解雇の撤回を求める裁判の支援運動に参加したことがありました。その時は、法廷の様子を見て、裁判って、なんて無駄な時間をかけるんだ、なんであんな不誠実な証言者を採用するんだ、などの感想を持ちました。
 昌司さんと出会ってからは、刑事裁判にもおかしなことがたくさんあることがわかりました。裁判官は検察官のいいなりばかり、犯人としての直接的な証拠がないのに有罪とする、と弁護団の方々がさんざん言っていましたが、本当にそうだと思いました。
 ところが、布川事件の再審を求める署名が集まり、支援者が広がり、私も毎月の裁判所への要請行動に参加する中で、だんだん裁判所の態度も変わってきたのではないかと感じるようになっていきました。それは水戸地裁でもそうでしたし、東京高裁でもそのような手ごたえを感じました。
 そして私たちは、実際に裁判官が再審開始決定を出し、そして再審で無罪判決を出すところに出くわしました。こうして今は、裁判官の中にも誠実な人がいるのだということが理解できることになりました。そして、裁判官を動かすにも熱意が大事だと思っています。

―――昌司さんと杉山さんは警察の取調べで嘘の「自白」を強要され、その結果いったん有罪判決が確定しました。警察の取調べの問題点についてはどのようにお考えですか。

(桜井恵子さん)
 とにかく警察が密室で取り調べるのが問題だと思います。取調べの可視化(録画・録音)をして、「自白」を強要させないようにすることが必要ですし、本来的には取調べにあたっては弁護士が立ち会えるようにするべきです。
 被疑者を拘束する期間も長すぎます。
 私は支援組織の方々とジュネーブに行き、国連の拷問禁止委員会で布川事件のことを直接訴える機会があったのですが、そのような経過の中で、国連から日本の刑事手続きが国際的に遅れていることを指摘する勧告が出されたことを印象深く記憶しています。他の多くの国では被疑者や被告人の権利がもっと重視されているのです。
 日本の刑事裁判にはいろいろな問題があります。それは第三者機関が検証すべきと考えます。これも国連の勧告で指摘されていることです。

―――刑事裁判を改革する上で国民の意識も変えるべきだとお聞きしましたが、どのようなことでしょうか。

(桜井恵子さん)
 逮捕されれば、その人はイコール犯人、という感覚が国民の中に根強くあります。しかし、市民が裁判員として刑事裁判に参加するようにもなっており、多くの方々には、ぜひマスコミなどの報道だけで判断するのではなく、無実の人が犯人だという汚名を着せられていることが少なくない、ということも知って裁判に臨んでもらいたいと思います。
 また、逮捕され、被疑者とされた人にも人権があるのであり、「自白」の強要などは許されない、ということも知ってもらいたいと思います。

―――えん罪被害者の雪冤のたたかいを支えてこられた経験をふまえた、重い提言だと思います。司法の改革のため、引き続き連携させていただければと思います。本日はありがとうございました。

<終わり>