高知白バイ事件とその裁判(その2)  
2011年12月26日
大野耕さん(片岡晴彦さんを支援する会副会長)

<前回からの続き>

高松高裁控訴審

 高知地裁で実刑判決を受けた後、片岡さんと私たちは事故鑑定人とともにバスの走行検証をおこなった。走行検証には実際に白バイと衝突したスクールバスを使用し、タイヤも事故当日と同じスタッドレスタイヤに換装して検証を行った。検証の大きな目的は次の2点にあった。
@地裁で認定されたバスの速度からの急ブレーキによって1mをこえるブレーキ痕はつくのか
A急ブレーキの際の乗客への影響。
 検証の結果 @については20pほどのブレーキ痕がついた。Aについては、大きな衝撃が乗客を襲っている様子が克明にビデオに写しだされていた。

写真1・走行検証でのブレーキ痕

 その時の映像の他、乗客だった中学生の証言、バスのブレーキ痕とされた路面痕跡の解析結果をあらたな証拠資料として控訴に臨んだ。しかし、高松高裁柴田秀樹裁判長はそれらの証拠の審理は必要ないとして、即日結審を行い控訴棄却の判決となった。その判決文の中で柴田裁判長はブレーキ痕の長さと急ブレーキの衝撃について以下のように述べて片岡氏の主張を却下した
@「大型車は普通車に比べて摩擦係数が低く制動距離は長くなるため、スリップ痕は長くなる。低速だからと言って1mを超えるスリップ痕が付かないとは言えない。」
 では、どれくらい摩擦係数であれば裁判所認定速度の時速7.5km(5〜10km/hの中間)でバス左前輪の1.2mのスリップ痕が付くのかといえば、その場合の摩擦係数は約0.15となる。この摩擦係数は固まった雪道に等しい。この却下理由が合理的であるなら、大型車の制動距離は普通車と同じ道路を走っていたとしても、雪道と同じくらいの距離が必要となるがこの差はあり得ない。ちなみに高知地検は、0.7の摩擦係数を使用してバスの速度を時速約15kmと算出した高知県警科捜研の算定書を高知地裁に証拠として提出している。
参考・実務の友

写真2・高知県警が証拠提出したブレーキ痕

A「(大型車は)急制動があっても減速度が低いから、人に感じる程度の衝撃がなかったからと言って、スリップ痕が形成されないとは言えない」
 時速7.5kmの物体が急制動後1.2mで停止。つまり時速0kmになったと原審判決は認定したのだから、減速度に高いも低いもない。そもそも減速度に車両の大きさや摩擦係数は関係がない。また。バスの25名の乗客が気が付かない急制動があるはずもない。乗客が気が付かない程度の制動ならばブレーキ痕が付くはずもない。本件事故でバスが時速7.5kmから急制動をかけていたら、少なからずバスの乗客にけが人が出ていたはずだ。この他にも不可解な却下の理由はいくつもあるがすべてをお伝えするスペースがない。ブレーキ痕そのものの矛盾については掲載した写真をご覧いたきたい。(写真1・タイヤの溝がある走行実験でついたブレーキ痕 写真2・タイヤの溝がない高知県警撮影のブレーキ痕)

控訴審判決

 この2つの却下理由を読むと「〜だから〜でないとはいえない」の表現が共通している。ブレーキ痕はつかないと主張する片岡氏の主張に対して、「ブレーキ痕がつかないとは言えない」、即ち、1mを超えるブレーキ痕はつく可能性は残ると裁判官は判断したわけだ。簡単にいうなら「1mを超えるブレーキ痕はつくかもしれないのだから、あなたの主張は却下する」ということだろう。審理を尽くしたうえでの裁判官判断であるならまだしも、証拠調べをしないままに裁判官がこういう言い回しをするなら誰でも有罪とすることができるのではないか。ここまで来ると、片岡氏や私たちの怒りは警察の不法捜査から裁判や裁判官に向けられた。

司法の官僚化

 近年、刑事司法の世界では大きな動きが出ている。冤罪事件の再審無罪判決や郵政不正事件における検察の不祥事などをうけて、取調べの視覚化の動きなどの司法改革の声が上がっている。しかし、自白偏重の裁判を批判するなら、密室での取調べという警察・検察の捜査手法を改善する一方で、裁判官はどうして嘘の自白調書を見抜けずに、警察・検察側の証拠を採用するのかを考えるべきだろう。それは裁判官の官僚化の一言に尽きる。裁判官といえども行政組織の、いわゆる「お役人」と変わらないということだ。
 これまで行政組織の官僚批判はよく耳にすることはあっても、私は裁判所や裁判官が官僚化しているといった批判をテレビ・新聞などマスコミから見聞したことがないのだが、それは日本の裁判制度がきちんと機能しているからではない。裁判所において他の組織同様に官僚化の弊害がでている事実を国民が知らされていないだけだ。最高裁事務総局に人事権を握られた裁判官はもはや「独立した存在」とは言えないだろう。裁判官が忙しさにかまけて、検察・警察の証拠を安易に採用した結果が有罪率99.9%の日本の刑事裁判であり、上司の意向を受けて、保身や昇進のため判決文を書き直したりする裁判官がいたりしても不思議ではない。

終りに

 高知白バイ事件に関わるまではなんの疑いもなく裁判官を信じていたが、今となっては裁判官や裁判を公平と信じる根拠はどこにもないことに気が付いている。そのうえで支援している今回の再審請求の中で、これまであらゆる機会に提出をもとめてきた証拠写真のネガフィルムや、隠されていた目撃者の供述書など多くの証拠が裁判官の訴訟指揮のもとようやく開示されはじめた。こういったように、これまでの公判では考えられない変化が起きているのは、高知白バイ事件がこれまでのように無視できない事案として認知されたからではないかと考えている。このことは多くの皆様からの支援なしには考えられない。この場をお借りして皆様にお礼申し上げるとともに、これからも高知白バイ事件再審請求にご関心とご支援をよろしくお願い申し上げる。

 
「高知白バイ事件・片岡晴彦さんを支援する会」
所在地 高知県吾川郡仁淀川町長者乙2494
会長  高木幸彦
2008年9月に片岡晴彦さんの友人やバス乗客だった中学生の保護者を中心として結成。裁判費用の募金活動や署名活動の他、事件の周知宣伝活動を行っている。現在も再審開始を求める署名活動を行っている。
ホームベージ http://haruhikosien.com/
公式ブログ  http://haruhikosien.blog28.fc2.com/
Eメール   haruhikosien@gmail.com