大詰めを迎えた冤罪「袴田事件」第二次再審請求審  
2011年11月14日
石井信二郎さん(「袴田巖さんの再審を求める会」共同代表)
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 今から45年前に発生した冤罪袴田事件。無実の死刑囚袴田巖さんの姉ひで子さんが請求人となって第二次再審請求を静岡地裁に申し立ててから約3年6ヶ月が過ぎた今、審理は大詰めを迎えようとしています。
  確定判決の中心証拠である「工場味噌タンクから事件の1年2ヶ月後に発見された5点の衣類」のDNA再鑑定が8月29日から進行中で、12月22日までに鑑定結果が判明する予定です。また昨年から裁判所は、弁護団が求める証拠開示に対し、三者協議の場で前向きな発言を行うようになりました。検察官も渋々ながら少しずつ開示せざるを得ない展開に持ち込めています。すべての冤罪事件に共通するように、弁護側が要求する未開示証拠はどれも袴田さんにとって有利なものばかりだと弁護団では評価しています。
  証拠の全面開示の必要性に対する原則論としては、多くの専門家の指摘を挙げるまでもなく「被告人の防御権の保障」「公正な裁判を受ける権利の保障」「無辜(無実の者)の不処罰原則の厳正化−冤罪の防止」「公益の代表者としての検察官の職務」などの実現のためです。ところが検察官は刑事裁判における当事者主義を歪曲して、有罪・無罪をいたずらに目先の‘勝敗’に置き換えるというあきれた習性に陥っているように思われます。一般市民からすれば、中学生でも当然と考えるであろう、こうしたことの実現に抵抗する検察というのは一体何なのだろうと思います。公益の代表者としての自覚を持って職務を遂行できないのであれば法的に義務化することを要求していくしかないでしょう。しかし現状すべての証拠の開示義務が法律で規定されていない中、‘証拠隠し’と騒ぎ立てているだけでは詮無いことです。今の土俵に乗って戦わざるを得ないわけですから、開示義務がない中でいかに開示させるかです。
  袴田再審では、弁護団や支援者が再審請求審とは別に、情報公開制度を使って捜査機関の内規を調査した結果、開示請求している捜査資料の保存義務規程などが明らかになり、それまで検察が「不見当」と言っていた証拠を少しずつ出させることに成功しています。裁判所の姿勢の変化もあり、検察官が開示請求に反論すればするほど上記の原則論からして墓穴を掘っていくわけです。論点を整理しつつ論理的に追及していけばさらなる証拠開示も可能となっていくでしょう。またDNA再鑑定が成功すれば袴田さんに有利な結果になることは間違いないので、確定判決の有罪立証・証拠構造全体が総崩れになることでしょう。そうなった時、再審開始決定が出る前であっても、検察官に対しては職権により直ちに刑の執行停止し、釈放の手続きを採ることを求めていきます。
  さて袴田さん本人の現状は、拘禁症や糖尿病の悪化が心配されますし、認知症の進行も疑われています。再審請求審や事件の話、その他まともな会話はなかなか成立し難い様子でしたが、2006年の11月から2010年4月頃まではひで子さんや弁護人、ボクシング関係者らの面会に概ね出てきていました。ところが2010年7月以降は面会を一切拒否しています。拘置所側には本人の健康状態を何度となく照会していますが、こちらが望むような回答が得られません。保佐人でもある親族はおろか、本人にすらカルテや健康診断の結果が開示されないことは大きな問題で、確定死刑囚の処遇改善も喫緊の課題です。
  「袴田巖さんの再審を求める会」では、11月19日(土)13時から日本橋公会堂2階集会室で「冤罪袴田事件の再審を求める市民集会」を開催します。当日は弁護団から第二次再審請求審の最新状況の報告・解説をしてもらいます。そして「なぜ証拠の全面開示は実現しないのか」をテーマに、木谷明教授(元裁判官)、狭山事件支援者、東電OL殺人事件支援者を招いてパネルディスカッションを行うことにしています。冤罪事件に関心を寄せる多くの皆さんの参加をお待ちしています(詳しくは本会ホームページをご覧ください。http://hakamada-saishin.org/index.html)。