高尾山天狗訴訟から司法の問題点を考える(2)  
2011年5月16日
橋本良仁さん(高尾山天狗裁判原告団事務局長)
<前号からの続き>

―――弁護団の弁護士の方々との連携はいかがでしょうか。
(橋本さん)
  私たちは提訴するときにも日本環境法律家連盟や全国公害弁護団連絡会議(公害弁連)の方々に相談にのってもらい、以降弁護団の弁護士のみなさんを信頼し、二人三脚で裁判をすすめてきています。この裁判には実質的に10数名の弁護士が関わっており、弁護団は全体で100数十名になります。
  先ほども申したように、この裁判は住民・原告が主体的にたたかい、訴状づくりも自分たちが中心となり、裁判での証人の申請などの具体的な提案もおこなっています。住民・原告は弁護士のみなさんを「先生」ではなく、「さん」づけで呼びます。まさに同志的な関係です。時に厳しい議論をし、そして議論が済んだら飲みながら親交を深めています。
  この裁判は道路公害を予防し、自然の権利を守るたたかいであり、裁判所を説得するには新しい論理も組み立てる必要があります。弁護士のみなさんもこの裁判に魅力ややりがいを感じ、若い弁護士の方々もどんどん加わってきています。

―――この裁判での裁判所の動向を聞く限り、司法・裁判所は本当に求められる役割を果たしていないように思われますが、どのようにお考えですか。
(橋本さん)
  道路建設の是非は費用便益比(B/C)という計算によって検討されます。現在は、B=ベネフィット(経済効果)割るC=コスト(費用)が1以上でなければならないとされます。ところが、国土交通省はこの数値を過大に水増ししているのです。これは私たちだけが指摘しているのではなく、各種報道もなされています。国土交通省はなんとしても道路計画を推進しようとしているのです。
  道路建設の公益性について現在国際的にも様々な議論が展開されています。日本の道路行政がなかなか変わらない背景には、官僚と財界・政界が癒着し、さらには学会もそれに加担しているという構図が指摘されます。東日本大震災があっても、政府の道路関係予算は昨年並みに執行されることになっています。不要で公害を撒き散らす道路建設予算は即刻東日本大震災の被害復旧などに当てられるべきですが、そうなっていません。そこには道路公害の被害の事実を直視しない曇った眼があります。
  私は、大型公共事業をめぐっては、政・官・財そして学会の結びつきに司法も加担していることを強調したいと考えます。原子力発電所の開設に反対する住民の訴えを裁判所はことごとく否定してきました。今回の東日本大震災での福島原発の事故には裁判所の責任も問われるべきで、同じように道路行政に対しても裁判所は厳しくチェックすべきなのです。
 
―――最後に今後の裁判でのたたかいにあたっての決意をお聞かせください。
(橋本さん)
  私たちは裁判でのたたかいとあわせて、住民の声を集め広げる活動も車の両輪と位置づけてすすめています。圏央道建設に反対して100万人署名活動をすすめ、現在65万筆集めています。この裁判にはマスコミにも比較的好意的に報道していただいています。
  私たちは「高尾山から地球が見える」と思っています。このたたかいを通して、地球の温暖化や生物多様性、人間と自然の共生などの地球的課題を考えることができるのです。
  東日本大震災は、いまを生きる私たちにどのような世界観・人生観を持って生きていくのかを突きつけていると思います。この裁判もそのような観点から頑張っていくつもりです。

―――こんにちの司法を考える上でも高尾山天狗裁判には様々な教訓があると思いました。本日はありがとうございました。

 
【橋本良仁さんのプロフィール】

高尾山天狗裁判原告団事務局長。
「高尾山の自然をまもる市民の会」事務局長、「道路住民運動全国連絡会」事務局長、「公害・地球環境問題懇談会」運営委員も務める。