検察改革とさらなる刑事司法改革を  
2011年1月24日
佐藤真理さん(弁護士)

 郵便料金不正事件に関する大阪地検特捜部による証拠の改ざん・隠蔽事件は、国民に衝撃を与えました。
検察改革の出発点は、刑事司法のさらなる改革の中に位置づけられるべきだと思います。というのは、裁判員裁判の導入は大改革には違いありませんが、捜査の改革を伴っていないため、「自白偏重」主義=「人質司法」は一向に改まっていないからです。「百人の犯罪者を逃すとも、1人の無辜(無実の人)を罰せず」の刑事裁判の大原則が、日本の刑事司法では必ずしも貫徹されてこなかったのです。
自白を強要する取調べの根絶のために、取調過程の全面可視化(録画、録音)と証拠の全面開示を直ちに実現すべきです。
検察改革としては、欧米のような検察官倫理規定を定め、違反者には法曹資格の剥奪等の制裁が必要です。検察官適格審査会を全国8ブロックに増やし、弁護士や市民からの申告を受けて審査する体制を整備すること、さらに裁判官と同様に10年の任期制の導入も検討するべきです。抜本的には、人権感覚に優れた経験豊かな弁護士から裁判官及び検察官を選任する法曹一元を展望すべきです。
特捜検察の解体論がありますが、賛成できません。政治家、高級官僚、財界人などの「巨悪」を摘発するのは、政治的な圧力に弱い警察には無理であり、特捜検察が必要です。
むしろ、東京、大阪、名古屋の特捜部だけでなく、全国の地方検察庁が独自捜査を十分にできるような体制に強化すべきだと思います。そのためには、検察官並びに検察事務官を大幅に増やし、「警察との力関係を変える」ことが重要です。警察官は全国に約4万3000人いますが、検察官はわずかに約2600人で、1割にも及んでいません。現状では、独自捜査どころか、検察官が警察の捜査を十分にチェックすることすら容易でありません。
今回の事件を契機として、検察の本格再生を願うとともに、冤罪を生まない刑事司法の実現のために、私も微力を尽くしたいと思います。

*この論稿は「奈良合同法律事務所ニュース」2011年1月1日号に掲載されたものです。

 
【佐藤真理(さとうまさみち)さんのプロフィール】
弁護士。
元:奈良弁護士会会長、日弁連理事(1994年度)
現:自由法曹団常任幹事、日本労働弁護団常任幹事、日本国民救援会奈良県本部会長、日弁連憲法委員会委員