再審への思い(2)  
2010年11月1日
杉山卓男さん(布川事件再審の請求人)
前号からの続き>
 

―――布川事件の裁判には多くの裁判官が関与しました。裁判官に対する杉山さんの思いもお聞かせください。
(杉山さん)
裁判では有罪とされ、第一次の再審請求も認められず、苦しい思いが続くことになってしまいました。ある裁判官は、裁判を始める前から私たちは有罪だと思い込んだ言い方をしました。許せないと思いました。
私には、警察がわかってくれなくても、裁判官ならばわかってくれるだろうという思いがありました。それは私が「嘘の自白」をしてしまった理由にもなっています。それだけに、私たちが無実であることを認めなかった裁判官たちには、裏切られたという思いを強く感じました。
ただ、私の裁判官に対する認識は、最近少し変わってきています。再審開始を決定してくれた裁判官は真面目で、そういう裁判官もいるのだなあ、と感じました。そして、よく考えてみると、検察はずっと必要な証拠を出してこなかったわけで、裁判官も検察に騙されていたのではないか、検察の主張を見抜けない裁判官も問題だが、元凶は検察ではないか、とも思うようになってきています。

―――杉山さん・桜井さんの弁護団はだんだんと増えてきたと思います。弁護士の様々な姿も見てきたのではないでしょうか。
(杉山さん)
いま弁護団長をしていただいている柴田五郎先生は高裁段階から担当していただき、有罪確定後の再審請求と再審裁判に至る、恩人です。
弁護団にはいろいろな弁護士に加わっていただいていますが、再審開始決定にあたって大きな役割を果たし、2003年に亡くなった山川豊弁護士のことは忘れられません。山川先生は亡くなる直前、私たちに“君たちに苦労を強いてしまった責任は弁護士会を含めて司法界全体にある。申し訳ない。”を言われました。感無量でした。

―――再審が始まり、杉山さん・桜井さんの無罪判決に近づいてきているように感じますが、いまの気持ちをお聞かせください。
(杉山さん)
おそらく無罪判決を勝ちとれるだろうと思います。
ただ、無罪判決の場合でも、検察がさらに控訴する危険性もあると思っています。足利事件の再審では菅家さんの無罪が確定しました。よかったです。ただ、菅家さんの場合は遺留物についての改めてのDNA鑑定の結果によって無罪となったのです。布川事件の裁判は足利事件の裁判とは少し違っていて、警察・検察の捜査のあり方、裁判での検察の主張などが全体として問われることになり、その影響は大きいものとなります。布川事件で無罪判決が確定すると、警察・検察のあり方の根本的な見直しが求められることになりかねません。決して油断はできないと思っています。

―――布川事件のことを多くの人々に知らせることは、日本の司法を改革していくためにも重要だということを、あらためて感じました。杉山さんと桜井さんのたたかいを描いたドキュメンタリー映画もできました。全国各地で上映されることを期待しています。
本日はありがとうございました。

 
【杉山卓男さん】
1967年に茨城県利根町布川で強盗殺人事件=布川事件の被疑者として桜井昌司さんとともに逮捕される。無実を主張するも、裁判で無期懲役が確定。1996年に仮釈放。2005年、再審開始が決定され、現在2010年にはじまった再審裁判をたたかっている。
「桜井昌司さん・杉山卓男さんを守る会」のホームページはこちら