裁判所の判断は「結論ありき」になっていないか  
2010年9月13日
川田キヨ子さん(過労自殺事件の裁判の原告)

―――川田さんの長男・直さんは、1996年、コンピュータ関連会社に入社半年後にうつ病となり、自殺されました。川田さんは直さんの自殺は業務上の過重労働によるものと確信し、労働基準監督署に労災認定を求めましたが認められず、行政訴訟を提起されました。また、会社に対する安全配慮義務違反を問う損害賠償請求訴訟を提起されました。裁判は、損害賠償訴訟は敗訴となり、行政訴訟では一・二審での敗訴判決を不服として上告されています。
まず、なぜ裁判をたたかうことにしたのか、その動機からお聞かせください。
(川田さん)
元気で快活だった息子がなぜ自殺してしまったのか、私は無念であるとともに、その理由を知りたいと思っていました。息子の死後、会社の上司だった方と会う機会があったのですが、その時、息子は会社の中で大切にされていなかったのだと感じました。そして、息子の同僚だった方などから話を聞いたところ、息子が過重な仕事を強いられていたことがわかり労災申請をしたのです。ところが、労働基準監督署が労災として認めなかったので裁判に訴え、また会社の責任を追及する民事訴訟を提起したのです。

―――これまでの裁判所の判断は川田さんの主張をほとんど認めてきませんでした。川田さんは現在、裁判官に対してどのような印象をお持ちでしょうか。
(川田さん)
私は当初、裁判官は法律にもとづいて公平に判断するだろうという期待を持っていましたが、裁判をたたかってきて、必ずしもそうではありませんせんでした。私たちの主張がなぜ裁判官に伝わらないんだろう、と大きな疑問を感じています。息子が従事したコンピュータのシステムエンジニアの仕事の大変さを裁判官には理解できないのではないか、裁判長は年輩の方ですし、コンピュータ関連の仕事を具体的にイメージできないのではないかという感じもします。それと、これまでの裁判の各判決の“切り口”がほとんど同じであることが不可解です。医師やエンジニアの意見書を無視するなど、私たちの具体的な主張に対してもほとんど判断していません。私は「はじめに結論ありき」になっているのではないかとさえ感じてしまいます。

―――裁判をしてきて、弁護士の役割についてはどのように感じていますか。
(川田さん)
やはり弁護士は法律の専門家として、依頼人の利益を守るために献身していただいています。相手側の証人に対する尋問のときなどに鋭く切り込んでくれ、大変頼もしく感じます。
ただ、弁護士にもいろいろな方がいるようです。私は他の過労死事件の原告の方々とも交流していますが、その方々の中にも、弁護士さんにはもっと頑張ってほしいと思っている方がいらっしゃいます。

―――行政訴訟の最高裁でのたたかいにあたって訴えたいことをお聞かせください。
(川田さん)
この裁判については過労死問題の弁護団も注視し、支援していただいています。高裁の判決は、息子の自殺についてはうつ病発症後の心身のストレスを評価せず、労災保険には適用されないとしましたが、弁護団はその不当性も問うことにしています。
また、システムエンジニアの業務実態とそれに伴う精神的負荷の大きさも認めさせたいと思っています。

―――最後に裁判にあたっての川田さんの思いをお聞かせください。
(川田さん)
「命よりも重いものはない」ということを裁判所に、そして社会全体の伝え、わかってほしいと思っています。
息子の死後、会社は社員の安全対策の措置を具体化しはじめたようです。もっと早く講じてほしかったのですが、自殺予防への一歩前進です。もちろん日本の自殺者は毎年3万人を超え、それはいまなお深刻です。これを何とかしたいです。そのためには労働のあり方と密度の問題も検討されるべきです。長時間労働の深刻さとあわせ、労働密度の問題にも目が向けられるべきです。この裁判がその契機になってほしいと思います。

―――本日はお話しをお聞かせいただき、ありがとうございました。

 
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