市民の財産となる司法を〜司法修習生の給費制存続は市民の願い〜  
2010年6月7日
伊藤智恵さん
(市民のための法律家を育てる会(宮城)共同代表)

1.市民のための司法インフラを

 私は法律家ではありません。ふつうの歯科医師です。司法修習生の存在は知っていましたが、給費制のことは知りませんでした。でも、給費制が廃止されることを知人の弁護士に聞いたときに、「制度改革」の名を借りた「改悪」「弱者イジメ」の流れに流されてはいけないと思いました。
多くの市民は、法律家との接点を持つ機会はあまりなく、できれば弁護士にお世話にならずにすむ生活を維持したいと考えています。弁護士に、一種の「敷居の高さ」を感じ、漠然とした畏敬の念を覚えるからです。「とんでもなく難しいといわれる司法試験を通った、自分たちとは違う、すごい人たち」であり、かつ、「高収入」のイメージがあるのですから、近寄り難いのは当然です。そこで、なにか事がおきても、弁護士に相談するのは、最後の手段になりがちです。
でも、住民運動に関わったり、重大な疾患で患者や家族の立場になったり、迷惑な居住人が近くにいたり、欠陥住宅や欠陥商品の被害者になったりと、おだやかな生活を維持できなくなることは意外と多く、そこで弁護士の頼もしさを実感させられるわけです。私自身、いくつかの市民運動やプライベートな問題で、多くの弁護士に助けられてきましたので、市民の立場に立つ弁護士の必要性が骨身に沁みています。
私たちが安心して生活するためには、インフラの整備が必要です。インフラはなにも、施設設備や道路に限りません。健康を守り育てる歯科医師もその一つですし、市民が安心して相談できる弁護士もその一つです。安心安全な市民生活に欠かせない司法インフラを、後退させてはなりません。給費制の廃止は、高い志と人間性を備えながらも経済的理由で法律家への道を断念してしまう人を出してしまいます。借金を負っているために、収入にならない事件は引き受けられないなど、志を曲げてしまうこともあるかもしれません。本来は市民のための法律家になるはずの人を、お金のために転向させてしまう可能性を否定できません。それは、私たち市民にとって、非常に大きな損失につながります。財政難を理由にこのような改悪を許してしまったら、市民の財産となる司法インフラを失ってしまいかねません
これまで市民は、司法のあり方に沈黙してきました。でも、市民オンブズマン運動などのように、社会全般が市民の力で変われることが示されつつある昨今、市民が司法を変えることもまた、可能なはずです。

2.仙台での取り組み

(1)まず市民に知ってもらうことが大切
最大の難関は、修習生の給与が廃止されること自体が市民に知られておらず、マスコミでも報道されてこなかったことです。「弁護士は民間人だから国費で養成するのはおかしい」「そのくらいの借金ならすぐに返せるはず」などの弁護士業務への不理解や、昨今の公務員攻撃も相まって、再度の法改正には程遠いのが現状です。
この状況で給費制を維持させるためには、弁護士と市民が連携して広範な市民運動を形成し、国会を動かすことが必要です。それも、ターゲットは参議院選挙後の臨時国会での法改正ですから、迅速な行動が必要です。

(2)「市民のための法律家を育てる会」結成
そこで、今年1月、市民や法科大学院教授、医師、弁護士、市民団体代表などが呼びかけ人・賛同人となり、「市民のための法律家を育てる会」を結成しました。現在、共同代表3名、呼びかけ人13名、賛同人55名で構成し、週に1度の会議を開催しています。
3月18日に仙台市中心部で街頭宣伝をしたところ、チラシを受け取った市民は、「知らなかった、これはおかしい」と口々に言われ、宣伝の重要性を実感しました。その後も、メーデー会場や憲法集会会場、新司法試験会場、街頭などで宣伝署名活動を継続的に行っています。
また、仙台弁護士会会員に対し、「貸与制だった場合、あなたは経済的にみて弁護士になることができましたか?」というアンケートを実施しました。

(3)全国初の市民集会を開催
3月26日、仙台弁護士会の後援を得て、全国初の市民集会を開催しました。法科大学院や労組、街頭での宣伝、地方新聞の掲載もあり、当日は百名を超える参加者で盛況となりました。
基調報告では、日弁連実施のアンケートや前述の仙台弁護士会会員へのアンケート結果を基に、修習生の置かれている実態と貸与制になった場合の弊害を訴えました。
メイン企画は寸劇です。仙台の弁護士有志で結成された『劇団あおば』が『CHANGE?変身?』を上演しました。この問題をわかりやすく知ってもらおうと、脚本・演出・役者を自前で行い、“数百万の借金を抱えて弁護士をめざす場合、どうなるか…。社会的弱者救済のために弁護士になりたいという志ある修習生が2つの全く異なる法律事務所を訪問した結果、彼が選んだ道は…。”という設定で熱演しました。会場は笑いに包まれながら、参加者からは「いかに深刻な問題かがよくわかった」との感想を頂きました。
宇都宮日弁連会長のビデオレターを上演後、最も時間を割いた会場発言では、現役の法科大学院生や教授、一般の方などから多くの意見が出され、議論しました。給費制問題は修習生の給与廃止の問題にとどまらず、サービスを受ける市民の問題だという共通認識を持つことができたと思います。

3.今後の取り組み

 7月3日(土)午後2時より、東北学院大学土樋キャンパス90周年記念館(仙台市青葉区土樋1丁目3?1)において、『司法修習生の給費制維持を求める市民集会』を開催します。当日は宇都宮日弁連会長が来仙し、落合博実氏(元朝日新聞編集委員)、育てる会共同代表山形孝夫氏(元宮城学院女子大学学長)とともに、司法修習生の給費制問題をテーマに鼎談を行います。その他、市民やロースクール生、司法試験受験生がリレートーク形式で給費制に関する意見を発言します。
またそれに先立ち、集会当日の午後1時より、『司法修習生の給費制維持を求める街頭パレード』を実施します。仙台市中心部の勾当台公園から繁華街をパレードし、司法修習生の給費制問題を多くの市民に訴えます。オリジナルデザインのキャラクター「しゅうしゅうちゃん」Tシャツを着て、サンバのリズムにのって、楽しくシュプレヒコールをあげる予定です。ご都合のつく方はお誘い合わせのうえ、午後1時に勾当台公園へ集合し、ぜひパレードと集会にご参加ください。
今後も、市民の身近で市民のために働く法律家を、市民の手で育てるために、ご一緒に行動しましょう。