裁判員制度を司法参加のチャンスに  
2010年4月5日
川畑惠子さん
(社会福祉法人大阪ボランティア協会“裁判員ACT”裁判への市民参加を進める会)
学習会(10年2月の様子)

この取り組みを始めた理由
候補者として、市民として学び、対話できる場がほしい


私は、昨年度の裁判員候補者です。実際の裁判への呼び出しは受けませんでしたが、候補者になったことがきっかけで、本や資料を読んだり、裁判所の説明会に出かけるなど、「もしも自分が裁判員になったら」という視点で考えるようになりました。
裁判や司法の基本を知らない市民が裁判員になって、果たして裁判が良くなるのか。新しい制度で問題もあるが3年後には見直すというけれど、そこに関わる当事者はどう向き合えばいいのか。いろんな不安や疑問が生まれました。
しかし、聞こえてくるのは「裁判所は身近です」「裁判は短期間で終わります」「専門知識は不要、市民感覚で意見を言ってください」という広報ばかりで、市民が司法に参加する意義や、なぜ裁判員制度を始めるのか、裁判員としてどのような心構えを持てばよいのかという議論ができる場は見つかりませんでした。それなら、市民の視点で裁判員裁判を考えていく取り組みを、私たち自身の手で始めようと、大阪ボランティア協会の仲間に呼びかけたのが活動の始まりです。
大阪ボランティア協会は1965年の創設以来、市民自治や参加を大切にしながら市民活動支援を行ってきた民間団体です。社会課題の解決に向けて自発的に、先駆的に、アクションを含めて取り組む人々を応援し、さまざまな現場をコーディネートしてきました。司法の専門家ではありませんが、市民参加や協働の取り組みでは豊富な経験があります。

取り組みから感じたこと
現場の人に話を聞いて、実情をよく理解することから


公開のイベントとしては、これまでに3回の学習会を開催しました。参加者には裁判員候補者、経験者もおられ、少しずつ仲間の輪が広がっています。
実際の裁判員裁判で弁護人を経験された高山巌弁護士からは、公判前整理手続きの課題など報道だけでは伝わらない裁判員裁判の実情をうかがい、まずしっかりと実情をよく知ることが大切と改めて学びました。そのためにも、まだまだ数少ない裁判員裁判の当事者の声を集めて社会化していく工夫が必要だと考えています。
現在、当会には、裁判員候補者などの市民の他、弁護士、記者、司法NPOメンバーなども参加していますが、活動は一市民・ボランティアとしての取り組みです。良質な市民の学びの場を作りたい、裁判員経験者の組織化ができれば…。アイディアはいろいろあっても、財源もなく、動ける時間も限られていますので、当面は活動に優先順位をつけ、政策提言に集中していく予定です。
現在もホームページ上で裁判員制度に関する市民の意見を募集していますが、今年の参議院選挙前には裁判員制度についての候補者アンケートと結果の公開、秋頃には各政党からゲストを招いての公開シンポジウム開催などを計画しています。
各地で同様の取り組みをしている市民グループとも連携しつつ、3年後の法改正に向けた議論に、市民の声をしっかりと提言していけるよう、知恵を絞っているところです。

グループとして社会に訴えたいこと
参加は私たちの権利。人任せにしないで動き始めよう


先日、昨年裁判員を経験された方のお話をうかがう機会がありました。「裁判員のしんどさをわかってほしい」というお気持ちもあったようで、評議の秘密にふれないよう慎重にではありましたが、一気に4時間も語ってくださいました。
制度改善のためにも、裁判員として後に続く市民のためにも、裁判員の体験を広く共有していくことが必要です。守秘義務の問題はありますが、立場の違う多様な人々が議論に参加して対話を深め、声を出していかなくては、せっかくの市民参加の意味がありません。
活動を通じて、裁判員制度や市民参加の仕組みだけでなく、裁判そのものの問題にも気づくことができ、司法への市民参加の重要性を強く感じるようになりました。裁判員裁判への参加も、まちづくりや政治への参加と同じです。さまざまな課題をお役所や専門家頼み、人任せにしないで、社会全体の問題、自分の問題として考える市民が増えてこそ、裁判員制度があるべき方向に向かうような気がします。裁判員が裁判の“お客さま”にならないためにも、裁判への参加を義務ではなく、市民の権利として積極的にとらえ、多いに議論していくために、市民の立場でできることを考え、取り組んでいきたいと考えています。

 
★連続学習会「もしも裁判員に選ばれたら」
第1回「裁判員制度ことはじめ」 09年9月
講師 弁護士西村健(日弁連裁判員制度実施本部事務局次長、大阪弁護士会裁判員制度実施大阪本部副本部長。)

★第2回「市民参加で裁判はどう変わる?」09年10月
講師 上口達夫(「司法改革大阪各界懇話会」世話人、「市民の裁判員制度・つくろう会」前事務局次長。)

★学習会「これでいいのか? 裁判員裁判〜弁護人が本音で語る内幕〜」10年2月
講師 高山巌(大阪弁護士会・裁判員制度大阪本部委員)

市民の意見募集中