「市民による司法」「市民のための司法」(1)  
2010年2月1日
宮本康昭さん(弁護士)

―――1999年の司法制度改革審議会発足から10年たち、裁判所の制度の改革、法科大学院創設、裁判員裁判の実施、等々の改革が行われてきました。これらの司法制度改革の到達点についての評価からお聞かせください。
(宮本さん)
この間の司法制度改革は、司法制度改革審議会発足の当初から、新自由主義と規制緩和の政策の一環だとして反対する意見がありました。たしかに政府・自民党が意図した改革が新自由主義的な思考に強く影響され、「規制緩和型司法制度改革」とでも呼び得るような改革づくりを志向していたことは疑いありません。しかし、この間に実施された制度改革は、「市民の司法」と呼び得る改革をかなりの程度実現することができたと私は考えています。
―――具体的にはどのような改革を評価されるのでしょうか。
(宮本さん)
司法制度改革には様々な課題がありましたが、たとえば昨年から始まった裁判員制度については、裁判員候補者の出席率は90%以上で、裁判員の80%がやって良かったと答えています。市民が司法に主体的に関わり始めています。
労働審判制度も始まっていますが、労働者個々人の問題について以前の裁判よりも解決が早くなり、評価されています。
被疑者国選弁護制度ができたことも大きな前進です。これまでは当番弁護士による1回の面会を受けるだけだった身体を拘束された人達に権利擁護の手が差しのべられるようになったのです。
裁判官の指名と人事評価制度が改革され、裁判官の選任と評価が密室の中から国民の目に届くところに押し出されるようになりました。
この他にも多々ありますが、私は基本的に、この間の司法制度改革によって否定的な事態は生じていないし、「市民による司法」「市民のための司法」の実現に向けて着実な前進をとげていると思っています。
この改革について、「行きすぎた」とか「見直す」べきだという意見が弁護士会の中にもありますが、今の時点では、私には「行きすぎた」ところを見出すことができません。
もちろん、私は、司法制度改革がこれで100%良いとは思っていません。不十分なところ、足りないところはたくさんあり、更に改革を進めなければなりません。裁判員制度を更に進めて陪審制度へ、裁判官選任の透明化だけにとどまらない官僚裁判官制度の改革から法曹一元へ、等々と課題は山積しています。

(続く)

 
【宮本康昭さんのプロフィール】
元裁判官。1971年の再任拒否事件により弁護士となる。日本弁護士連合会司法改革実現本部事務局長、同本部長代行、東京経済大学教授等を歴任。
著書に『危機に立つ司法』(汐文社、1978年)などがある。