未遂  
2010年1月4日
 犯罪が成立したとするためには、刑法が規定する要素(これを専門的には「構成要件要素」といいます)が全て充足され、結果が発生する必要があります。例えば、殺人罪では、人を殺そうと思って、人に危害を加え、生命を奪うという目的を遂げた場合に殺人罪が成立します(この場合を専門的には、「既遂」といいます)。ですから、殺害を目的に犯罪行為に及んだにもかかわらず、被害者が幸いにも死ななかった場合には、殺人罪は成立しません。だからといって、殺人といったことを目的にした犯罪行為が行われた場合を処罰しないわけにはいきません。ということで、刑法は、全部の犯罪行為についてではありませんが、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」場合をも未遂として処罰することにし(43条)、処罰する場合には、それぞれその旨の規定をおくことにしています(44条)。具体的には、殺人、強盗、窃盗、詐欺、強制わいせつ、住居侵入等々の主要な犯罪の未遂が処罰されることになっています。未遂が処罰される場合を「未遂犯」といいますが、未遂犯になるかどうかは、未遂についての規定をそのまま読めば、「犯罪の実行に着手」したものの目的を遂げていない状態で終わってしまった場合ということになります。ですから、問題は、いつ「実行に着手」したことになるかです。犯罪行為は、通例、計画(陰謀)から準備(予備)を経て、実行の着手へと進み、完成(既遂)に至ると考えられていますので、準備段階と区別され、既遂の結果を発生させる危険性が認められる行為への着手の時点と一般的に考えられています。ちなみに、計画(陰謀)や準備(予備)が処罰されるのは、ごく限られた重大な犯罪だけですので、犯罪になるかどうかは、未遂にあたることになるかどうかという場合が多く、いつ未遂になるかが重要な問題ということになります。