黙秘権  
2009年12月7日
 黙秘権とは、捜査段階で被疑者が自己の意思に反して供述をすることを強要されず(刑事訴訟法第198条2項)、また、刑事裁判で被告人が終始沈黙しまたは個々の質問に対し陳述を拒むことができる権利(同291条3項、311条1項)をいいます。憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定していますが、黙秘権は自己に不利益かどうかを問いません。
被疑者・被告人の供述(特に自白)は重要な証拠なので、過去には拷問により自白が強要された歴史があり、現代でも長時間にわたる取り調べで自白が強要されることがあります。これに対し、被疑者・被告人に与えられた最も重要な権利が黙秘権なのです。もちろん、被疑者・被告人は自らに有利な事実を供述して弁解することもできますが、捜査機関の有する圧倒的な情報量により弁解内容の矛盾点や記憶違いを追及され、不本意な供述に変えられてしまう可能性があるのです。
このように黙秘権は憲法に由来する重要な権利であるため、捜査官は被疑者の取り調べの前に、裁判長は検察官の起訴状朗読後に、黙秘権を告知しなければなりません。
さらに、黙秘権を実質的に保証するため、被疑者は捜査機関の出頭要求を拒むことができ、また出頭後はいつでも退去することができます(同198条1項ただし書)。しかし、逮捕または勾留されている被疑者はこの規定から除外されていて、実務上は取り調べ受忍義務を認めたものとされています。これに対し、学説上は、長時間の取り調べを受けて黙秘権を行使し続けることは困難であるため、憲法に由来する黙秘権の重要性を根拠に取り調べ受忍義務を否定する考えが有力です(そもそも逮捕・勾留は被疑者の逃亡と証拠隠滅を防ぐためで、取り調べを目的としたものではありません)。