過失  
2009年10月19日
 刑法上の犯罪が成立するには、犯人に、「故意」、すなわち、罪を犯す意思のあることが必要であるのが原則です。例えば、殺人(刑法199条)の場合、人が死ぬことを意図するか、少なくとも、死んでもかまわないと考えていなければ、成立しないということになります。
例外的に、「過失」によって犯罪が成立する場合があります。典型は、過失致死罪(刑法210条)、すなわち、「過失」によって、人を「死」に「致」らしめた罪です。
この「過失」の意味をどう解するかについては、刑法学上も、たいへんな争いのあるところであり、厳密な説明は困難ですが、「意識の緊張を欠いたため自己の行為から犯罪事実が引き起こされるのを予見しなかった心理状態」とか、「違法な結果を回避できなかった落ち度(客観的注意義務違反)」などと説明されるのが一般的です。要は、不注意によって一定の結果(例えば、人の死)を引き起こすような心理状態ないし落ち度を過失と言う、と考えていただければいいでしょう。
なお、過失致死罪の特別な類型として、業務上過失致死罪(刑法211条1項前段)があります。「業務上必要な注意を怠」って人の死という結果を招く罪です。以前は、自動車を運転して人を死亡させれば、運転が業務とはいい難いような場合でも、同罪が成立するとされ、違和感を持たれた方も多いでしょう。これは、「業務」の意義を、判例が拡張して解釈してきた結果です。現在では、自動車の運転によって人を死亡させた場合についての、自動車運転過失致死罪(同条2項)が新たに設けられています。