被疑者・被告人  
2009年10月12日
 いずれも刑事手続の対象された市民の呼び方です。違いは、検察官が裁判を求める手続(起訴)をとっているかどうかです。すなわち、警察や検察等の捜査機関が、犯罪を犯した疑いがあるとしているだけの場合には、被疑者と呼ばれます。それにとどまらず、検察官が、犯罪を犯したことは間違いないとして裁判によって刑罰を科すことを要求して起訴したことで、裁判の当事者になっている場合は被告人と呼ばれ、民事裁判で訴えられている「被告」とは区別されます。マスコミは、通例、刑事裁判の場合にも「被告」と呼ぶのは、マスコミ独自の慣用であり、法律に従った呼び方ではありません。捜査機関は、被疑者を取調べ、自白を追及するのが当然であり、拘束されている被疑者は密室での取調べに応じる義務があると考えています。その結果、虚偽の自白が生まれ、冤罪が発生してきました。しかし、被疑者は、弁護を受ける権利(憲法34条、刑訴法30条)や黙秘権などが保障されています(憲法38条1項、刑訴法198条2項)。また、自白の利用にも厳しい制限が設けられています(憲法38条2,3項、刑訴法319条1,2項)。ですから、学説の多くは、刑訴法に取調べについての規定はありますが(198条1項)、拘束されていないときはもちろん、拘束されているときにも、取調べを受けるかどうかは、被疑者の任意だと考えています。無罪推定の原則がある以上、被疑者と捜査機関は対等な当事者であり、主体としての地位にあると考えるからです。被告人の検察官との関係、地位も同様で、弁護人の援助を受ける権利(憲法34条、37条3項、刑訴法30条)、証人を審問する権利(憲法37条2項)、黙秘権(憲法38条1項、刑訴法311条1項)など充分な防御活動を行うための権利が保障されています。もっとも、被疑者・被告人の権利保障が、必ずしも憲法・刑訴法の規定通りになっていたわけではないことを忘れてはなりません。