書籍「終身刑を考える」 筆者:S・K
2014年10月10日
 この本は、2013年3月16日に大阪弁護士会館で開催されたシンポジウム「死刑と無期刑の間――終身刑の導入と死刑廃止について考える」をまとめ、加筆したものです。
 第一部は、終身刑の導入と死刑について、「制度論」からアプローチするもので、浜井浩一氏、石塚伸一氏、布施勇如氏からの報告と質疑応答の内容が収録されており、第二部では、永田憲史氏、安田好弘弁護士、後藤貞人弁護士がパネリスト、金子武嗣氏(大阪弁護士会死刑廃止検討PT座長)が司会を務めたシンポジウムの内容が収録され、「現状論から」終身刑の導入と死刑について考察できるようになっています。
 142ページの本ですが、全体を通して様々な視点から終身刑と死刑について緻密な報告や議論がなされており、終身刑の導入を真剣に考えるために有益な情報を提供しています。
 まず第一部に収録されている浜井浩一氏(犯罪統計から見た日本の犯罪と刑事政策などをご研究されている龍谷大学法科大学院の教授)の報告では、殺人など凶悪事件の動向とその背景、体感治安について、日本の刑罰の動向と受刑者の関係、無期刑の運用の現状、死刑判決の推移、死刑に対する世論調査について、多くの興味深い統計データを提示しながら明確な分析がなされています。
 石塚伸一氏(「市民の、市民による、市民のための刑事政策」という視点から、刑事施設の被収容者の権利や死刑廃止の理論と実践、刑事司法と情報公開などをご研究されている龍谷大学法科大学院の教授)からは、絞首刑の残虐性をめぐる議論と経過、死刑と無期刑に対する世界認識や運用の現状、死刑確定者と無期受刑者の心理などが紹介されています。日本の死刑は、絞首刑以外に執行方法がないわけですが、その残虐性に関する最高裁の見解、その認定のもとになった古畑鑑定、その誤りを指摘したラブル博士(オーストリアの法医学者で「此花パチンコ店放火事件」でも証言している)の意見なども検証されています。
 布施勇如氏(龍谷大学矯正・保護総合センター嘱託研究員。法務教官、保護監察官、刑務官の養成にも携わっている)からは、テキサス州における終身刑導入の経緯とその後についての調査報告がなされています。終身刑の導入と死刑判決数の関係や、冤罪数、死刑と終身刑のコスト、仮釈放など、終身刑導入に向けて考慮しなければならない問題を様々な面から提起しています。
 質疑応答では、死刑の犯罪抑止効果が確認できない中で、刑事政策としての死刑にどのような意義があるのか、日本で終身刑が導入された場合にどのような運用になるか、法務省が終身刑導入に反対する真意はなにかについての意見や、日本における課題を提示しています。
 第二部のシンポジウムでは、永田憲史氏(日本における死刑、無期刑の研究の第一人者)からは、死刑と無期刑の基準についての報告、安田好弘氏(光市母子殺害事件の第一次上告審以降の主任弁護人、オウム真理教事件、和歌山カレー事件等を手がけている弁護士)からは、光市母子殺害事件についての報告がなされ、司法やメディア、最高裁の動きなどについても語られています。また、此花パチンコ店放火事件の主任弁護士である後藤貞人氏から同事件の報告があり、死刑求刑事件の弁護と事実の関係についても語られています。冤罪被害者救済のための調査・弁護活動を無報酬で行っているイノセンス・プロジェクトの活動がアメリカの死刑制度に与えた影響などの紹介もあり、大変参考になります。
 
【書籍情報】
2014年9月、日本評論社から刊行。編者は大阪弁護士会死刑廃止検討プロジェクトチーム。定価は本体1700円(税別)。