書籍『原発を止めた裁判官 −井戸謙一元裁判官が語る 原発訴訟と司法の責任』 筆者:H・O
2013年10月7日
 これまで原発の建設や運転の中止を求める裁判で原告が勝訴したのはわずか2件しかありません。そのうちの1件で、裁判長として志賀原発2号機運転差止め請求を認める判決を言い渡したのが井戸謙一さん(現在は弁護士)です。
 本書には井戸さんが志賀原発の裁判で原告を勝利させた、その内容や井戸さんの考えや思いも綴られているとともに、井戸さんが、裁判所・裁判官の制度やその改革課題についても自身の経験をふまえて語っています。
 井戸さんは、裁判官になった1979年の頃も裁判官会議や合議で身分の違う裁判官同士が率直に議論していたこと、裁判の独立を体現する裁判長も少なからずいたこと、などを具体的に証言しています。また、その時期にも裁判官の「任官拒否」があり、仲間たちがどう対応するか真剣に語り合ったことも明らかにしています。1960年代後半から70年代前半にかけての司法反動によって、憲法に忠実であろうという裁判官に圧力がかけられたわけですが、紆余曲折を経ながらも、それへの抵抗が続いていたことがリアルに語られています。
 井戸さんは、こんにちでは最高裁による露骨な差別人事などがほとんどなくなっていることを指摘しつつ、最近他と異なる判決を自重するような「裁判官の同質化」がすすんでいることを危惧します。そして、「裁判官の認識というのは、市民の認識が基盤になります。裁判官も一人の市民ですし、…原発の問題一つ考えても、市民運動が盛り上がることが裁判官の認識を変えていって、それがいい判決につながっていくだろうと思います」と、こうした状況を打開する課題にも言及しています。

*関連情報 『原発を止めた裁判官 井戸謙一元裁判官が語る原発訴訟と司法の責任』中村英之さん(神坂さんの任官拒否を考える市民の会)
 
【書籍情報】
2013年8月、現代人文社から刊行。定価は本体900円+税。編者は神坂さんの任官拒否を考える市民の会。