論稿「和解はどのような可能性を拓くか」 筆者:H・O
2013年9月30日
 「中国人強制連行・強制労働事件に向き合った裁判官たち」というサブタイトルがついた、内田雅敏弁護士の論稿で、月刊「世界」2013年10月号に収載されたものです。
 アジア・太平洋戦争末期、約4万人の中国人が日本に強制連行され、鉱山やダムの建設現場などで強制労働させられ、過酷な労働で多くの犠牲者も出ました。戦後、強制連行させられた中国人生存者・遺族の方々は、加害企業に対して損害賠償を請求する裁判を提起しました。その裁判の多くは時効などの理由で中国人生存者・遺族の主張を斥けてきました。ところが、裁判によっては和解が成立するなどして、加害企業が中国人生存者・遺族に謝罪し、補償することにした例があります。こうした裁判にたずさわってきた内田弁護士はこの論稿で、秋田・花岡事件の裁判で和解を成立させた裁判官、広島・西松建設の事件で原告の請求を認めた裁判官などを紹介しています。そうした裁判官が退職後に、中国人生存者・遺族を追悼したり、その行事に参加する姿も紹介しています。
 内田弁護士は、中国人生存者・遺族の心中を察し、「裁判所として何かできることはないかを呻吟している裁判官たちも少なくないのだ」と言います。司法を市民本位のものにしていく可能性を感じさせてくれる論稿です。