書籍『原発と裁判官』(その1) 筆者:H・O
2013年4月15日
 3.11以降、“司法も政府の原発政策を追認してきたのではないか”と、その経過や問題点を探る書物がいくつか出されてきました。そのような中で、本書の特徴の一つは、原発に関わる裁判にたずさわった裁判官たちの判断や葛藤を浮き彫りにしていることだと思われます。
 これまで、原発に関わる裁判で住民側が勝訴したのは2例しかありません。本書では、その裁判を担当した裁判官が登場し、住民側を勝たせるには勇気が必要であったことなどを語っています。本書には、住民側の訴えを斥けた裁判官たちも登場しています。原発に関わる裁判に裁判官たちはどのような感覚・問題意識で臨んだのかが率直に述べられています。そして、3.11を目の当たりにした今日の時点で、かつての自らの裁判への対応を真摯に振り返っています。そこから、裁判官が行政に対して毅然とした判断をしづらい状況にあること、裁判官の思考も国民世論からある程度影響を受けていることなどが読み取れます。
 司法を真に国民本位のものとしていくにあたって、裁判官たちが考えているなどを知っておくことは重要でしょう。そのような点でも有益な書といえます。

<つづく>

【書籍情報】
2013年3月、朝日新聞出版から刊行。著者は磯村健太郎氏と山口栄二氏(いずれも朝日新聞オピニオン編集部記者)。定価は本体1300円+税。

*当サイトでは以前、元裁判官による連続講演会の様子を紹介してきました。こちら。その講演録集を法学館憲法研究所も取り扱っていますので、あらためてご案内します。こちら