論文「緊急逮捕と司法のあり方」 筆者:H・O
2012年6月18日

 筆者である大出教授は弁護士でもあります。ある日、某警察署から大出弁護士に電話がかかってきました。Aさんが傷害事件をおこし、面識のあった大出弁護士に弁護を依頼してきたのです。大出弁護士がただちに接見したいと警察官に告げると、緊急逮捕の逮捕状を裁判所に請求するためAさんを遠くの警察に移送しなければならないのだと渋りました。この地域で深夜に令状に対応できる裁判所が限られているのだそうです。大出弁護士はなんとかAさんと接見できたのですが、こうした経験をしました。
 急を要するため、として行われる緊急逮捕。これは司法官憲が発する令状がなければ逮捕されないという憲法33条の規定に反するとの学説がありますが、最高裁は合憲という判断をしています。
 大出教授は憲法33条が定められた経緯を歴史的に解明しています。そして、この規定は全国の隅々に裁判所と裁判官が配置されていることが想定される中で定められている、という側面を論証しています。同時に、にもかかわらず裁判所の統廃合がすすめられ、裁判官の増員がすすんでいない裁判所の問題点を指摘しています。
 警察に拘束された人が、裁判官が近くにいないからという理由で、長時間拘束されてしまう状況は改善されなければなりません。

 
【論文情報】
村井敏邦古稀記念論文集『人権の刑事法学』(2011年、日本評論社)に所収。筆者は大出良知・東京経済大学現代法学部教授。