書籍『冤罪と裁判』 筆者:H・O
2012年6月4日

 裁判員制度が導入されたもとで、冤罪をなくしていくための課題を提起する本です。
 著者の今村弁護士は、こんにちの裁判員制度が「裁判員の負担の軽減」を重視しすぎていて、それが“無辜を罰しない”という刑事裁判の重要な目的の達成に否定的な影響を及ぼしていることなどを分析しています。今村弁護士は、少なからぬ無辜の者が起訴され、有罪とされているとの認識を持ち、そのような状況になっている背景には依然として続いている自白偏重の捜査の問題点がある、ということを指摘します。そして、捜査の改善などの課題を提起するとともに、裁判員がその被告人が有罪なのかを実効的に判断できるような環境整備の必要性を説きます。
 多くの国民は、裁判員裁判にも積極的に関わろうという気持ちを持ちつつ、あまり時間をとられたくない、なるべくわかりやすい裁判にして欲しい、と思っているのではないでしょうか。裁判員裁判を決して“無辜を罰しない”ものにしていくには、国民意識の変化も重要課題だと思われます。
 この本は、なぜ冤罪が生まれるのか、裁判員裁判の判決にはどのような傾向があるのか、などについても具体例を示しながら解説しています。

 
【書籍情報】
2012年5月、講談社より講談社現代新書として刊行。著者は今村核弁護士(現在、日弁連全国冤罪事件弁護団連絡協議会座長、など)。定価は本体800円+税。