書籍『長沼事件 平賀書簡 −35年目の証言 自衛隊違憲判決と司法の危機』 筆者:H・O
2011年7月18日

 自衛隊は合憲なのか違憲なのか。それは、戦後の日本社会において人々を二分してきたテーマです。そのことが初めて裁判の場で判断されたのは長沼ナイキ基地訴訟でした。その第一審で福島重雄裁判長は自衛隊を違憲とする判決を言い渡しました(1973年)。その後高裁・最高裁は自衛隊の憲法判断はしないという立場をとるようになり、裁判所のその立場はこんにちまでずっと続いていますが、福島裁判長の判決にはいまなお日本社会に少なくない影響をおよぼしています。
  1960年代、若手の裁判官たちの中に、憲法に忠実な判決を書こういう機運が広がっていました。そのような中で、保守政権の政治家や右翼などが、裁判官の青年法律家協会(青法協)所属を問題視するようになり、1971年には青法協所属の宮本康昭判事補の再任が拒否されるという驚愕の事件が発生しました。そのような流れの中で福島裁判長も判決にあたっての干渉を受けることになりました(平賀書簡問題)。福島裁判長はその干渉に屈せずに自衛隊を違憲とする判決を書いたのです。
  この書では、憲法学者・水島朝穂教授が福島氏にインタビューし、自衛隊を違憲とする判決を書いた当時の考えや心境を引き出しています。また、司法制度などを研究する大出良知教授が宮本判事補再任拒否事件や平賀書簡問題など、いわゆる「司法の危機」がなぜどのように展開したのかについての関係者の証言を引き出しています。
  自衛隊違憲判決、「司法の危機」に関わる歴史を学び、日本国憲法の平和主義や司法改革の課題を考えるために、多くの市民・法律家に読んでもらいたい書です。

 
【書籍情報】
2009年4月、日本評論社から刊行。福島重雄・大出良知・水島朝穂編。定価(本体2700円+税)。