論稿「最高裁判決で拓かれた『一票の較差』の新局面」 筆者:H・O
2011年5月23日

 2011年3月23日、最高裁大法廷は、2009年に実施された衆議院選挙について、そこでの「一票の較差」は投票価値の平等に反し「違憲状態」だとする判決を出しました(ただし、是正に必要な合理的な期間が経過していないとして、公職選挙法等の規定を違憲とまでは判断しませんでした)。宍戸常寿・東大准教授はこの論稿で、この判決を見るに、これまで「一票の較差」の解消に消極的だった最高裁は変わったとし、その分析をしています。
  宍戸准教授は今回の判決の中の、いわゆる「一人別枠方式」についての判断に至る経緯とその論理を明らかにしました。「一人別枠方式」は、まず都道府県に一議席を配分し、残る議席を人口比例で配分するもので、「過疎地対策」と理由づけられていたものですが、最高裁は今回、1994年から導入された衆議院議員選挙での小選挙区制導入後はじめて、この方式を「違憲状態」としました。宍戸准教授は、今回最高裁は、選挙における投票価値をめぐる問題についてのこれまでの最高裁の判例法理の経緯をたどりつつ、国会との摩擦もできるだけ小さくしようとしつつ、画期的な判断をしたという評価をしました。
  こうした最高裁の「変化」の背景にはこの間の司法制度改革もあると思われます。この論稿のように、最高裁での様々な判決を通して裁判所の変化が分析され、今後の課題が提示されることが期待されます。
  この論稿は雑誌「世界」2011年6月号(岩波書店)に収載されました。