書籍『裁判官はなぜ誤るのか』 筆者:H・O
2011年4月4日
 長年裁判官を務めた著者が、弁護士としての経験も踏まえ、えん罪が生まれる背景を分析し、えん罪をなくしていく提言をする書です。政府に設置された司法制度改革審議会が2001年に意見書をまとめましたが、著者は、それはえん罪をなくしていくという点では不十分だと考え、その考えが展開されています。
  多くの裁判官はまじめに裁判の仕事をしていますが、超多忙な日々を強いられる中で、被告人のほとんどを有罪にする裁判にたずさわっています。刑事裁判には「疑わしきは被告人の利益に」という鉄則があり、裁判官は決して無辜を罰することのないように務めなければなりません。ところが、次々に提起される刑事裁判でそのような姿勢を貫くことは容易でなく、ともすると検察官の立証を深く吟味することを怠ってしまうところがあるようです。
  著者は、裁判官として担当した徳島ラジオ商殺し事件、そして弁護士として関わる袴田再審請求事件・痴漢冤罪事件の捜査や裁判の状況を具体的に示しながら、えん罪が生まれる要因を明らかにしています。
  この書が出されて以降もえん罪は後を絶ちません。一方で裁判員制度の導入で裁判所と裁判官をめぐる状況は大きく変化しています。裁判員が裁判官による裁判のお飾りにとどまってしまったり、被告人を必要以上に厳罰に処そうという傾向が助長されるとの懸念の声もありますが、市民・裁判員の刑事裁判の趣旨への理解の深まりの中で、刑事裁判を変化させうる可能性も指摘されます。裁判官をめぐる状況と問題点をリアルに学ぶことができ、多くの市民に読んでいただきたい書です。
 
【書籍情報】
2002年、岩波書店より岩波新書として刊行。著者は秋山賢三弁護士(元裁判官)。定価は本体700円+税。