書籍『最高裁の暗闘 − 少数意見が時代を切り開く』 筆者:H・O
2011年2月14日
 最近、多くの人が意外に感じる最高裁判決が時折出されようになっています。この書では、刑事事件、行政事件などに関わる具体的な判決をめぐる動向が丹念に追われています。そして、書名のとおり、いま最高裁の裁判官の中で暗闘が繰り返されており、少数意見がやがて多数意見となって判決に変化が生じているということを明らかにしています。
  “刑事被告人、あるいは行政の不当性を訴える市民などは、第一審で勝訴したとしても、その判決は高裁などでは覆されることが多く、まして最高裁で勝訴することはほとんどない” “最高裁では弁護士や学者から裁判官になった人が違憲判断をすることはあっても、もともと裁判官や検察官だった人が違憲判断をすることはほとんどない”・・・。裁判に関心を寄せる人の中にはこのような認識が少なくなかったのではないでしょうか。この書は最高裁の裁判官をめぐる状況はそう単純なものではなく、それぞれの裁判官がそれぞれの問題意識をもち、様々な努力を重ね、少数意見が多数意見に変わっていっていることを明らかにしています。
  このような状況になっているのは、個々の裁判官の問題意識の変化や努力によるものですが、そこには社会的な背景があり、今世紀にはじまった司法制度改革もその大きな背景になっていることは間違いないでしょう。
  最高裁をめぐるこんにちの動きをリアルに学ぶことができる書です。
 
【書籍情報】
2011年1月、朝日新聞出版から朝日新書として刊行。定価は本体780円+税。著者は山口進さん(GLOBE副編集長)と宮地ゆうさん(GLOBE記者)。