【村井敏邦の刑事事件・裁判考(83)】
保護室収容中の被疑者・被告人と弁護人との接見について(2)
 
2018年11月28日
村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)
本判決の問題点
 最高裁判所は、基本的には接見妨害の可能性を認めつつ、特段の事情があるかないかについてさらに審議するようにとして、福岡高裁に事件を差し戻しました。この最高裁の判断は、先に述べた、保護収容中に面会の申し出があった場合について、刑事収容施設法に何ら規定がないことについて、最高裁は次のように解釈した結果出たものです。
 すなわち、最高裁は、このような規定がないことは、「保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあったとしても,その許否を判断する時点において未決拘禁者が同条1項2号に該当する場合には,刑事施設の長が,刑事施設の規律及び秩序を維持するため,面会を許さない措置をとることができることを前提としている」と解したのです。
 この点が、第一の問題です。

法に規定がない場合にどう解釈するか
 法律に規定がないこと、「法の欠缺」といいますが、その場合には、本来は立法の問題であって解釈の問題ではありません。しかし、立法を待つ間のない場合には、解釈で補うということになります。その場合には、法の基本原則にのっとって解釈することになります。刑事収容施設法に規定がない場合に、どのように解釈するかは、問題となっている事項にかかわる基本原則との関係で判断すべきものでしょう。保護室収容中の被疑者・被告人と弁護人等との面会については、刑事施設収容法だけではなく、むしろ、憲法34条とそれを具現化した刑事訴訟法39条1項の弁護人等と被疑者・被告人との秘密交通権の保障との関係で考えるべきことです。この権利は、保護室収容中の被疑者・被告人にも保障されていることは、最高裁判所も認めています。
 秘密交通権にここで相対しているのは、刑事施設の規律・秩序の維持です。刑事施設の規律・秩序の維持は、被疑者・被告人と弁護人等との秘密交通権に優越するのでしょうか。
 最高裁判所も、保護室収容中の被疑者等に対して弁護人等から面会の申し出があった時点で、直ちに面会を認めないという措置を違法としています。面会の申し出があったことを伝えて、その申し出を受けるか否かの判断を被疑者等がする機会を与えなければならないとしているのです。その限りでは、秘密交通権を優先させています。
 この時点では、被疑者等が大声をあげたり、職員に反抗的な態度をしていたとしても、申し出があったことを伝えなければならないのです。問題は、伝えてもなお大声を上げるなどをくり返している場合です。この場合には、「刑事施設の長が,刑事施設の規律及び秩序を維持するため,面会を許さない措置をとることができる」と最高裁判所は認めたのです。
 ただし、最高裁判所が引いている条文は、保護室収容要件を定めた規定です。保護室収容要件と保護室収容中の被疑者等と弁護人等の面会を認めるか否かの要件とは異なります。裁判所の論理によれば、保護室収容要件をみたす限り、弁護人等の面会は許可されないということになります。保護室収容中の被疑者等には、弁護人等との面会権は保障されないという結論になります。
 しかし、これでは、結局、秘密交通権の保障は、施設の規律・秩序の維持の前に制限されることを認めることになります。

「特段の事情」の判断
 最高裁判所は、面会を認めない「特段の事情」の有無を審理するようにと、事件を原審に差し戻しました。ここで、「特段の事情」が保護室収容を認める事情と同一ならば、上記の結論のようになります。
 保護室収容要件と秘密交通権を認めない要件とが異なる必要があるとするならば、ここにいう「特段の事情」は、保護室収容によっては解決されない特別の事情ということになります。どういうことが想定されるのでしょう。最高裁判所は、そうした事情の有無について審理を継続せよとしていますが、それがどういう事情かは示していません。これでは差し戻された裁判所は判断のしようがないのではないでしょうか。
 被疑者等が暴れていて、面会にたえられないとか、面会者に危害を加えることが明白であるというような事情が考えられるでしょうか。しかし、それとても、ここにいう「特段の事情」にあたるのかどうか、判断基準が示されない以上、わかりません。
 保護室収容中であることだけを理由にして、弁護人等との面会を許さないという措置をすることはできないことを認めた点、少なくとも面会の申し出がったことを被疑者等に伝えるべきとした点において、今回の最高裁判所の判断は評価できますが、依然として、被疑者等と弁護人等との接見交通権よりも秩序維持の利益を上位に置く発想は捨てられていないと言わざるを得ないのです。
 差し戻し審において、より突っ込んだ判断がでることを期待したいものです。
 
【村井敏邦さんプロフィール】
一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授を経て、現在一橋大学名誉教授。法学館憲法研究所客員研究員。