【村井敏邦の刑事事件・裁判考(82)】
保護室収容中の被疑者・被告人と弁護人との接見について(1)
 
2018年10月31日
村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)
 2018年10月25日に、最高裁判所は、拘置所に収容されている被告人と弁護人の接見について、非常に重要な判断を示しました。
 今回は、この判決の意義と問題点について考えてみたいと思います。

原審の確定した事実関係の概要
 原審、福岡高裁が認定した事実の概要は以下の通りです。
 「(1)上告人X1は,平成20年6月,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件で起訴され,福岡拘置所に被告人として勾留された。
 (2) 上告人X1は,平成21年7月23日,福岡拘置所において,「獄中者に対する暴行を謝罪せよ。」などと大声を発し,同拘置所の職員から再三にわたり制止を受けたが,これに従わず,同様の発言を繰り返して大声を発し続けたため,刑事収容施設法79条1項2号イに該当するとして保護室に収容された。
 なお,上告人X1は,同拘置所に勾留されてから上記の収容までの間にも,複数回にわたり,他の被収容者と共に「死刑執行に反対するぞ。」などと大声でシュプレヒコールを行い,保護室に収容されたことがあった。
 (3) 上告人X1の弁護人であった上告人X2は,平成21年7月27日,福岡拘置所を訪れ,上告人X1との面会の申出(以下「本件申出」という。)をした。
 上告人X1は,同月23日以降も連日大声を発し,継続して保護室に収容されており,同月27日も,本件申出の前後にわたり,「獄中者に対する暴行を謝罪しろ。」などと大声を発していた。同拘置所の職員は,上告人X1に対して本件申出があった事実を告げないまま,上告人X2に対して上告人X1が保護室に収容中であるために面会は認められない旨を告げ,上告人X1と上告人X2との面会を許さなかった。」
 弁護人である上告人X2は、上記拘置所の面会を許さない措置は違法であるとして、福岡地裁に接見妨害侵害を理由とする国家賠償請求をしましたが、福岡地裁は措置の違法性を認めず、請求を棄却しました。X2は、地裁の判断に対して福岡高裁に不服を申し立てましたが、福岡高裁も次のような理由でX2の主張を排斥しました。
 「保護室に収容されている被告人との面会の申出が弁護人からあった場合に,刑事施設の長が保護室への収容を継続する必要性及び相当性を判断する前提として,上記申出があった事実を被告人に告げるか否かは,その合理的な裁量に委ねられており,この事実を告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さない措置がとられたとしても,上記裁量の範囲の逸脱がなく,上記必要性及び相当性の判断に誤りがない限り,原則として,国家賠償法1条1項の適用上違法とならない。」
 上記の福岡高裁の判決を不服として上告が申し立てられたのが、本件最高裁判所判決です。

最高裁第1小法廷判決
 最高裁第1小法廷は、福岡高裁の判断には承服できないとして、次のような理由で、本件を福岡高裁に差し戻しました。
 「刑事収容施設法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は,未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り,未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記事実関係によれば,福岡拘置所において刑事収容施設法79条1項2号イに該当するとして保護室に収容されていた被告人である上告人X1との面会を求める本件申出が,その弁護人である上告人X2からあったのに対し,同拘置所の職員は,本件申出があった事実を上告人X1に告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さなかったものである。上告人X1は,本件申出の前後にわたり保護室において大声を発していたが,当時精神的にどの程度不安定な状態にあったかは明らかではなく,意図的に抗議行動として大声を発していたとみる余地もあるところ,本件申出があった事実を告げられれば,上告人X2と面会するために大声を発するのをやめる可能性があったことを直ちに否定することはできず,前記2(2),(3)の上告人X1の言動に係る事情のみをもって,前記特段の事情があったものということはできない。
 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人らの接見交通権の侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。そして,前記特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」

本判決の意義
 本判決は、保護室収容中の被告人と弁護人との接見を認めた初めての判決です。被疑者・被告人との接見については、刑訴法39条1項によって、秘密接見交通権が認められています。この権利は、被疑者・被告人にとっては憲法34条に認められている弁護人の援助を受ける権利の内容であり、弁護人にとっても弁護人の固有権です。本判決もまずこの点を確認しています。
 第1小法廷は、上記のことを前提として、「刑事施設の長は,未決拘禁者の弁護人等から面会の申出があった場合には,直ちに未決拘禁者にその申出があった事実を告げ,未決拘禁者から面会に応ずる意思が示されれば,弁護人等との面会を許すのが原則となるというべきである。」
 まず、基本的に、弁護人等から被疑者・被告人への面会の申し出があった時には、刑事施設の長は、そのことを被疑者・被告人に告げなければならないことを確認したことに、意義があります。
 他方、刑事収容施設法79条1項2号は、イ刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき、ロ他人に危害を加えるおそれがあるとき、ハ刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるときのいずれかに該当する場合で、「刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき」には、保護室に収容することができるとしています。
 刑事収容施設法は、保護室に収容中の被疑者・被告人の面会については、とくに規定を設けていません。そこで、問題は、規定がないことをどう考えるかです。実は、この点に本判決の問題があるのですが、この点は、一応置いておくとして、本判決の結論について考えてみましょう。
 本判決は、結論としては、本件の施設側の対応は、被告人と弁護人との接見を妨害した可能性があるとしました。この点に第二の意義があります。
 しかし、この判決には、問題点もあります。この点については、次回に引き続いて検討することにしましょう。
 
【村井敏邦さんプロフィール】
一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授を経て、現在一橋大学名誉教授。法学館憲法研究所客員研究員。