【村井敏邦の刑事事件・裁判考(66)】
GPS捜査に関する最高裁の判断
 
2017年3月28日
村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)

注目されていた最高裁大法廷の判断
 2017年3月15日、最高裁判所大法廷は、GPS捜査について強制処分に当たるという判断を示しました。
 GPS捜査については、すでに、この欄でも、過去3回取り上げています。しかし、これまでは、アメリカ判例と日本の下級審の判断について論評を加えてきました。GPS捜査に関する下級審の判断は、違法と適法とに分かれていました。違法と判断した2013年6月5日の大阪地裁第7刑事部決定に対して、その控訴審である大阪高裁は、GPS捜査に重大な違法があったとはいえないとしました。
 このように地裁と控訴審の判断が分かれたところから、最高裁判所は、この問題について大法廷を開くことを決定しました。大法廷による判断ということで、GPS捜査について真正面から向き合った判断が出るであろうことは、多くの人の一致したところでした。それだけに、最高裁の判断がいつ出るか、どのようなものとなるかが注目されておりました。

強制処分性について
 最高裁大法廷は、GPS捜査を強制処分に当たるとしました。任意処分とした2013年1月27日の大阪地裁第9刑事部の判断を排斥して、強制処分とした同年6月5日の大阪地裁第7刑事部決定の立場に立ちました。強制処分法廷主義に反するほどの重大な違法がないとしたその控訴審の判断も排斥しました。
 強制処分に当たるという理由として、大法廷が指摘するのは、以下の点です。
 「GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。」
 強制処分法定主義に反するほどの重大な違法はないという点に対しては、以下のように指摘しています。
 「憲法35条は、「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると、前記のとおり、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。」

検証にも当たらない新たな強制処分
 ところで、2013年6月5日の大阪地裁の決定は、GPS捜査を令状なしでは行えない強制処分とした上で、「検証」令状で対応可能という立場を示しました。これに対して、筆者は、「GPSによる位置情報の取得ということも、盗聴と同様、既存の強制捜査とは異なるものがあります。類似のものとしては盗聴ということなり、そうなると、盗聴令状によるべきだということになります。しかし、電話や通信の傍受というのとも、少し違うようです。性格が違うと許容される要件も違うので、憲法35条に規定する捜索・押収に当たるとしても、新たな要件を規定する法律を制定する必要があります。」と指摘しました。
 その上で、2013年6月5日の大阪地裁決定は、違法と判断した点については評価できるものの、「「検証」という既存の捜査方法の中に含めている点において、なお問題があるというべきでしょう。」としました。
 今回の大法廷の判断では、まさにこの点が指摘されています。
 まず、「GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の「検証」と同様の性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、「検証」では捉えきれない性質を有することも否定し難い。」としました。
 その上で、検証許可状と併せて捜索許可状の発付を受けて行うべきであるという見解に対しても、「GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。さらに、GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。」としました。
 筆者の年来の主張に近く、わが意を得たりの心境です。

新たな法律の必要性
 GPS捜査は、検証などの既存の強制処分では対応できない、新たな強制処分であるというのが、大法廷のこの捜査方法の法的性格についての見解です。
 このような新たな強制処分に対して、どのように対応すべきでしょう。二つの対応方法が考えられます。
 第一が、憲法が予定する強制処分に当てはまらないものである場合には、強制処分法定主義をおよそ充たしえないので、違憲な捜査方法として排斥すべきであるというものです。強制処分法定主義の原則的な立場です。盗聴が法的議論に登場する以前の刑訴法学における強制処分法定主義の理解は、ほぼこのようなことでした。
 ところが、盗聴という捜査手法を法的に承認しようという議論が登場してからは、第二の立場、すなわち、新たな強制処分に対しては、法的整備をすることによって、適法に行うことができるという立場が出てきました。
 大法廷は、法解釈によってGPS捜査を適法とすることは困難であるとしながら、「GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。」としました。
 問題は、法律さえ整備すれば、憲法の予想しない捜査手法を適法とすることが出来るのかということです。大法廷は、かなり慎重な態度をとっており、安易に法律さえ制定すればよいということではないと思われます。果たして、GPSを使った捜査が本当に必要なのかということも含めて議論をすべきだということでしょう。

 
【村井敏邦さんプロフィール】
一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授を経て、現在一橋大学名誉教授。法学館憲法研究所客員研究員。