続「法曹養成」―法科大学院の将来像  
2013年4月22日
西 理さん(西南学院大学法科大学院教授)
前回からのつづき>

 前回は、司法制度改革によって生まれた法科大学院が置かれている現状と問題点を概観するとともに、近々、相当思い切った見直しが避けられないのではないかと述べた。今回は、その見直しの方向性と内容について述べてみたい。

1 現在の法科大学院修了者の司法試験合格率の低迷ぶりは当初掲げられたところとは余りにかけ離れすぎており、到底看過することができない。その一因は、司法試験合格者枠が年間3000人にまで拡大されるという目標が達成されずじまいであったことにあるが、現在の合格者2000人でも司法修習生が厳しい就職難に直面していることを無視するわけにはいかない。したがって、3000人にまで拡大されることはもはや断念せざるを得ないであろうし、そればかりか1500人程度にまで減員される可能性すら否定できない。
 そうであれば、そのような合格者枠を前提にした上で、法科大学院の修了者の相当程度は司法試験に合格するという総定数を設定すべきである。その割合を仮に8割程度とすれば、司法試験の合格者枠が現在の2000人であれば2500人、仮に1500人程度に減員されるとすれば2000人くらいにすることが考えられる。もっとも、未修者については、当然のことながら、その入学試験は法学の素養を見分けるものではないから、入学後にどうしても法律の勉強になじめないとか、授業について行けないという学生も出ることは避けられない。そうであれば、未修者の場合はある程度多めに定員を設定することも許されてよいであろう。

2 しかし、いずれにしても、このような法科大学院の総定数を削減するについては、これまでの実績重視の強いもの勝ちというようなことになってはならない。首都圏や関西だけでなく、全国各地に法科大学院が適正に配置されることは不可欠だからである。もとより、地方の法科大学院にあっても相応の犠牲を払うことは覚悟しなければならない。少人数教育の利点などと強調してみても、毎年の入学者が1桁にとどまるというような法科大学院をそのまま維持することは無理がある。したがって、地理的な条件などを総合的に考慮しながら、現在の法科大学院を統廃合することも避けて通れないであろう。しかし、その前に(少なくともそれと並行して)、いわゆる有力校の定数の見直しがなされる必要がある。お隣りの韓国では各ロースクールの定員は150名以下におさえられていることであり、わが国の定数見直しの場合にも大いに参考になるものと思われる。

3 上記のような法科大学院の統廃合を伴う定数見直しの措置を経た上で、法科大学院の授業内容についても抜本的な見直しが図られるべきである。
 もっとも、未修者の場合は、1年次は徹底して法律基本科目(憲法、民法、商法、刑法)中心の授業を組むのは当然である。この間の勉強を通じて、各自、できるだけ客観的にその後の見通しを持ってもらうことを期待したい。したがって、進級を可とするかどうかについてはどこまでも厳格な審査がなされなければならない。こうして、無事に進級できた未修者及び既修者については、2年次前期に、行政法、会社法、民事手続法、刑事手続法などのほか、若干の演習科目を学ぶこととし、2年次後期からは、実務科目、隣接科目、展開・先端科目などに重点を置いた授業へと大胆に舵を切るべきである。そして、この際、私が是非とも強調しておきたいのは「法曹倫理」という科目の重要性である。この授業は法科大学院において必修科目とされているし、予備試験においてもこの関係の問題が出題されるのであるが、学生諸君がこの科目をどこまで重視しているかは疑問なしとしないからである。
こうして、法科大学院の学生が、法曹に求められる豊かな人間性と幅広い知識・素養を備えるとともに、実務家としてのセンスを磨いてくれることが期待されるのである。

4 このような法科大学院の授業を無事履修し終えた学生は、上記1のとおり、相当高い確率で司法試験に合格して然るべきである。また、そのような保証があってこそ、学生諸君も上記3のような2年次後期からの実務科目等中心の授業に真剣に取り組むことが可能になるものと思われる。
 そして、このような法科大学院における教育が実現したときは、予備試験制度は廃止するか、少なくとも、法科大学院の課程をかつて履修していることを条件にするなどの抜本的な見直しが図られるべきものと考える。
 以上が、私の法科大学院構想の素描である。
 
【西理さんのプロフィール】
大分地・家裁所長、福岡高等裁判所判事(部総括)を経て現在西南学院大学法科大学院教授