続「法曹一元」―わが国の場合  
2013年4月1日
西 理さん(西南学院大学法科大学院教授)
 前回、お隣りの韓国で、裁判官の任用制度がキャリアシステムから法曹一元に切り替えられるらしいということを紹介した。まさに驚きである。
 しかし、驚いてばかりいたのでは仕方がない。いかにしてわが国で法曹一元を実現するかを考える上で、韓国の経験を学び、活かしていくことこそが重要である。そこで、今回は、わが国における法曹一元の条件を少し具体的に検討してみたい。
 1 法曹一元においては、何と言っても裁判官任官候補者となる最大のものは弁護士である。そして、弁護士の人数がある程度以上に達していなければならないということが指摘されてきた。そのとおりであろう。
 しかし、この点は、司法制度改革を機に、司法試験の合格者枠が漸次拡張され、私たちのころは500人程度だったのが、今や2000人に達している。司法制度改革審議会が提唱した3000人規模には未だ達していないし、今後、さらにそこまで増加するのかと言えばかなり疑問ではあるが、それでもわが国の弁護士数は飛躍的に増大したことは間違いない。
 2 また、弁護士が任官するとなると、それまでに培われた依頼者等との関係を打ち切ることが必要である、しかし、これは言うほど簡単ではない。また、いつの日か弁護士業に回帰するとして、一旦解消させられた依頼者等との信頼関係が自動的に回復するなどということは期待すべくもない。
 そうであれば、弁護士個人と依頼者との信頼関係ではなく、弁護士事務所と依頼者との信頼関係に変える以外にない。そのためには、弁護士事務所の在り方が個人事務所から相応の規模の共同事務所(ロー・ファーム)へと変化して行くことが必要であろうが、この点も随分様変わりしてきているように思われる。
 3 このように、裁判官任官候補者の母体となるべき弁護士については、法曹一元の客観的な条件は相当程度整ったと言ってもよいように思われる。問題は、法曹一元に対する@弁護士の意識であり、さらには、A最高裁以下の裁判所の法曹一元に対する姿勢である。そして、実はこれこそが難問である。
 ア @について:わが国でも「弁護士任官」という方策が打ち出されて久しい。しかし、弁護士会の必死の取組みにもかかわらず、弁護士任官者の数は微々たるものである。もちろん、?裁判官には転勤がつきものであるとか、?やたら忙しくて、記録読みと判決書作成に明け暮れる毎日であるとか、?その割にはそれほど手厚い待遇が期待できるというわけでもないとかの消極要素もある。また、?折角、弁護士任官を希望しても任官できる保証はない(事実、少なくない数の「弁護士任官拒否」が生じている)というのでは、弁護士任官候補者として名乗りを挙げてほしいというのも酷かもしれない。そこで、?については、弁護士任官者には、再任までの間、原則として転勤しないでよいこととするとか、希望する任地以外には転勤させられることはないというように、「転所の保障」を実のあるものにすることが求められる。また、?については、事件の負担量について配慮することなどがあってもよいように思われるが、根本的には、裁判官全体の仕事量を軽減することであり、そのための人員増が必要であろう。さらに、?については、原則として「弁護士任官希望」があれば、これを受け入れるというくらいの積極的な対応が望まれる。
 イ Aについて:前回、最高裁は法曹一元に明らかに拒否的であるし、下級審の裁判官も消極的ないし否定的なように思われると述べた。しかし、弁護士任官については、最高裁も前向きに取り組まなければならない筈であるし、下級審の裁判官も弁護士任官については肯定的な態度のようであるから、変化が期待できないわけではない。なお、この点については、わが国の民事訴訟法学界の泰斗である新堂幸司先生が「トップを変える」ことの重要性を強調しておられることに心から共感を覚える。まずは、最高裁を変える、つまり、最高裁から法曹一元を実現するのである。最近の弁護士出身の最高裁裁判官を思い浮かべただけでも、このことの説得力と現実的な可能性は大きいと思われる。このようにして、法曹一元を自らについて実現した最高裁が弁護士会(日弁連と各単位弁護士会)と手を携えて、弁護士任官を粘り強く推進していくならば、法曹一元を夢物語に終わらせることはないのではないか。私は、そんなことを考えている。
 
【西理さんのプロフィール】
大分地・家裁所長、福岡高等裁判所判事(部総括)を経て現在西南学院大学法科大学院教授