法曹養成制度改革の到達状況を語る(その2)  
2012年4月30日
後藤昭さん(一橋大学法科大学院教授)

前回からの続き

【法曹界が進路としての魅力を失いつつある原因】

 先ほど申したように、司法試験の累積合格率はある程度あるのですが、司法試験は、まだ現在の法曹養成制度全体に完全に適合しているわけではないと思います。いわゆる純粋未修者の人たち、つまり法律の勉強をした経験のない人たちが3年間まじめに勉強して合格できる試験になっているかといえば、そうなってはいないと思います。それは、未修者の合格率がいわゆる既修者よりも低いという現状が続いていることからもわかります。このことが法科大学院全体の人気を下げる大きな原因になっていると思います。それが続けば、将来の日本の法曹界の活力を失わせる原因にもなるおそれがあります。
 実際に法科大学院全体への出願者は減っています。他方で、司法試験の合格率の高い法科大学院では逆に出願者が増えて、社会人や法学部以外の学部の出身者で、しかも優秀な人たちがたくさん出願するという現象もあります。
 いま法曹界が進路としての魅力を失いつつある大きな原因は、法科大学院で勉強するにはお金がかかるといった問題よりも、むしろ法科大学院で一生懸命に勉強しても司法試験に合格して資格を取れる可能性が低い、というところにあると思います。この状況を改善することが必要です。

【司法試験制度の改革課題】

 私たちの感覚からすると、司法試験を難しくすることによって学生がよく勉強して立派な法曹に育っていくとは思えません。司法試験が難しくなると、どうしても学生たちの関心は司法試験の合格という目先の目標に集中しがちです。そうすると視野の狭い勉強をすることになってしまい、学生生活もゆとりのないものになってしまいます。しかも、そのことによって法科大学院をめざす人たちが減ってくる、そのために、法科大学院に入る人たちの質を保つことも難しくなっていきます。
 私は、法曹全体の質を高めて、法曹界の活力を維持し高めるためには、多くの人たちがそこに参入してきて、その中で競い合って力を高める、という形にもっていかなければならないと思います。いまは、“なるべく法曹界には来るな”というようなメッセージが広がっているようで、それが進路としての法曹の魅力を下げているので、将来の日本の法曹界にとってよくない状況だと思っています。
 これからは、法律家が法廷での訴訟実務だけではなく、もっといろいろな分野で活躍することが期待されています。法科大学院での3年間の学習で司法試験を受けることになるわけですから、私はそこで要求できるものは限定的に考えないと無理だと思います。私は、いまの司法試験が要求している、試験問題の量とか難易度は高すぎるのではないかと考えます。

【法科大学院制度の改革課題】

 司法試験制度の問題のほかに、私は法科大学院にもいろいろな課題があるでしょう。
 一つは、教育力をもっと高める必要があります。法科大学院によって、あるいは教員によって、おそらくまだ格差があると思います。そこを改善して、全体の教育力を高めていくことは重要な課題だと思います。
 もう一つは、大変残念なことですが、現在ある法科大学院がこのままの数を維持できるのかという問題です。それはかなり難しいのではないかと思います。ある程度の再編成が必要になってくるかもしれません。
 とりあえずここでは以上2点を指摘しておきたいと思います。
 
【後藤昭さんのプロフィール】
一橋大学法科大学院教授(刑事法)。その設立にあたり、法科大学院長にも就任した。
『法科大学院ケースブック刑事訴訟法』(共著、2007年第2版、日本評論社)、『わたしたちと裁判』(2006年新版、岩波書店)など著書多数。