ゴビンダさん再審の新たな動きをうけてネパールから家族が緊急来日  
2011年9月26日
客野美喜子さん(「無実のゴビンダさんを支える会」事務局長)
再審・無罪を訴えるゴビンダさん

 7月21日早朝、「東電OL殺害 再審可能性」の大見出しが、読売新聞朝刊一面に大きく掲載され、マスコミ各社からひっきりなしに電話がかかり始めました。
  [東京都渋谷区で1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、強盗殺人罪により無期懲役が確定したネパール国籍の元飲食店員ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)が裁判のやり直しを求めた再審請求審で、東京高検が、被害者の体から採取された精液などのDNA鑑定を行った結果、精液は同受刑者以外の男性のもので、そのDNA型が殺害現場に残された体毛と一致したことが分かった。「(マイナリ受刑者以外の)第三者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」とした確定判決に誤りがあった可能性を示す新たな事実で、再審開始の公算が出てきた]
  殺到する電話への対応や諸方面への連絡に追われる中、とにかくゴビンダさん本人に、このことを知らせなければと、大急ぎで横浜刑務所に向かいました。
  ゴビンダさんは、6月末の弁護士面会でDNA鑑定が行われていること、7月末頃には結果が出そうだということは知らされていました。今朝のスクープ記事の内容を説明すると、胸の前で小さく手を合わせ、「拍手」の動作をして喜びを表し、「自分は無実だから、鑑定をしてもらえれば、きっと良い結果が出るという自信を持っていました。『真実は必ず勝つ』というネパールの諺が本当になりました!」と笑顔で語ってくれました。
  それから50日後。9月11日早朝、ゴビンダさんの実兄インドラさん(53)と妻ラダさん(41)が成田空港に降り立ちました。再審求審が慌ただしく動き出したため、家族の立場から東京高検に即時釈放を、東京高裁に早期再審開始を要請するため、「無実のゴビンダさんを支える会」の招きを受け緊急来日したのです。
  「ゴビンダさんに面会したら、まず何と言いますか?」待ち受けていた報道関係者の質問に、ラダさんは「真実は必ず勝つことを信じて、14年間も耐えて闘ってきた夫に『ありがとう』と言いたいです。夫が警察や検察の圧力に屈せず無実を主張し続けてくれたからこそ、私たち家族も誇りを持って生きることができました」と毅然として答えました。
  インドラさんによれば、ネパールのメディアでも、このことは連日のように取り上げられ、もはやゴビンダさんの無罪が確定したかのように大きく報じられているそうです。
  二人は、翌日から5回にわたり横浜刑務所でゴビンダさんに面会しました。ゴビンダさんは「今までは悲しい面会だったが、これからは笑って話そう」と言いながらも、その表情は必ずしも晴れやかではありませんでした。なぜなら、検察側が、新DNA鑑定結果について、「無罪証拠とは言えない」、「再審開始事由とならない」とのコメントを出し続け、さらに9 月2日にはこれまで存在すら伏せていた42点の証拠を開示し、追加鑑定を行いたいという意向を表明したからです。
  さらに、ラダさん、インドラさんが東京高検に要請に訪れた9月15日の翌16日、高検は、あくまでも有罪を主張し、再審開始に反対するとの意見書を高裁に提出しました。
  「これほどはっきりした真犯人の証拠が出たのに、なぜ犯人ではない私が、ここ(刑務所)にいなければならないのですか?一日も早く釈放してネパールに帰してください」というゴビンダさんの悲痛な訴えも、「喘息の持病に苦しむ老母(77)のことを思うと、ほんの少しの遅れが、本人や家族にとってどれほど多くの苦しみとなるか、わかってほしい」という家族の要請も、高検には届かなかったのでしょうか。
  私たちは、2005年の再審請求時に提出した新証拠と今回のDNA鑑定を合わせれば、再審開始の要件は、すでに十分満たされたと考えています。検察の「後出し」には、強い憤りを覚えざるを得ません。その思いは弁護団も同じでしょう。しかし、弁護団は、出来る限り確実な内容の決定書を裁判所に書いてもらい、さらなる検察の抵抗を封じたいという判断から、重要性の高いもの(被害者の胸に付着していたO型唾液、頸部の付着物など)に限って追加鑑定を行うことに同意しました。
  「ゴビンダは、事件当日、被害者に接触していないのだから、検察がどれほど調べ尽くしてもゴビンダのDNAを見つけ出すことはありえない。もちろん検察が捏造などの不正をしなければの話だが、万一、世論がこれだけ注視している中で、そのような愚かなことをすれば、もはや検察はおしまいだ」とインドラさんは冷静に語りました。
  ゴビンダさんは「こうなったからには、たとえ何年かかろうとも、再審無罪になって、”完全な無実の人間”として故郷に帰る。それまでもう少し待ってください」と家族に語ったとのことです。
確定判決の誤りがここまで明らかになった以上、速やかに無辜の救済ができるのか否か、日本の司法こそが、今、裁きにかけられているのです。