大阪地裁所長オヤジ狩り事件  
2011年2月14日
中川泰一さん(「大阪地裁所長オヤジ狩り事件の国賠請求を支援する会」事務局長)

 大阪地裁所長オヤジ狩り事件は、2004年2月16日に大阪市住吉区の路上で、帰宅途中の鳥越大阪地裁所長(当時)が襲われ、現金63000円を奪われ、腰の骨を折る重傷を負った事件です。大阪府警は、大阪地裁のトップが襲われたので、威信をかけてでも犯人探しに躍起となり、大捜査網で青年2人・少年3人を逮捕・補導しましたが、青年2人は大阪高裁で無罪となりました(確定)。少年3人も、取調べで犯行を自白させられましたが、その後否認に転じ、携帯電話のメールの履歴をもとにアリバイを証明し、無罪となりました(確定)。こうして5人全員が念願の無罪となり、晴れて普通の生活を送れるようになりました。
  5人は無罪判決確定後、国(検察)、大阪府(大阪府警)、大阪市(児童相談所)に対し、警察署の密室での取調べと、これに加担した児童相談所に対して、「ひどい暴力を受けたのは、今でも忘れることができない」「警察官に謝ってほしい」と国家賠償請求訴訟を起こしたのです。
  1月20日、午後1時15分、大阪地裁806号法廷で、日本国民救援会大阪府本部と「大阪地裁所長オヤジ狩り事件の国賠請求を支援する会」の人たちが傍聴席で見守る中、大阪地裁の吉田徹裁判長から判決が下されました。
「@被告・大阪府は原告・祖川和也に対し330万円、原告・藤本真一に対し112万5000円、原告・藤本真人に対し443万7500円、原告・曹敦史に対し318万7500円、原告・岡本太志に対し318万7500円、並びに、それぞれに対する遅延損害金を支払え(認容総額1523万7500円)。 A原告らの被告・国に対する請求はいずれも棄却する。 B原告・祖川和也の被告・大阪市に対する請求をは棄却する。・・・」言い渡しがありました。2分くらいで終わりました。傍聴に参加された「国賠請求を支援する会」の人から、「裁判長が礼をした時、被告側が誰ひとり来ていなかったので、これは勝ちやと思った。原告側は弁護士4人と原告の5人が勢ぞろいしていました」と笑顔で応えてくれました。
  判決文の骨子は警察の違法性について次のように述べています。

元少年K君20歳(当時13歳)
「事件当時のやりとりのあったメールの内容から、原告少年にはアリバイが成立する可能性が高い。にもかかわらず、原告が自白に至っていることに加え、原告が児童相談所で作成した日記には、警察官による暴行の事実が記載されており、児童相談所の職員も警察官の怒鳴り声を聞いている。故に、取調べにおいて警察官による一定の暴行があったと認められる。また、犯行形態等につき、本件被害者の供述と概ね一致する供述をしていること等からすると、取調べにおいて不当な誘導を受けたと認められる。こうした取調べは国家賠償法上違法である」

元少年S君23歳(当時16歳)と元少年M君21歳(当時14歳)の兄弟
「両人は取り調べにおいて、本件事件への関与を自白。しかし、アリバイが成立する可能性の高い当時13歳の少年の関与を前提としており、自白は虚偽の可能性が高い。虚偽の自白をするに至っていることからすると、取り調べにおいて警察官による一定の暴行があったと認められる。また、犯行形態等につき、本件被害者の供述をするに至ったこと等からすると、取調べにおいて不当な誘導を受けたものと認められる」

原告藤本青年および岡本青年
「両名は、取調べにおいて暴行等を受けた旨供述している。供述は具体的であり、原告岡本については、被疑者ノートにも暴行等の態様について詳細に記載している。そうすると、両名の供述は、一定限度で信用でき、両名の取調べは不相当に威圧的なものであったと認められ、こうした取調べは国家賠償法上違法である。また、両名は、違法に獲得された少年らの供述を証拠として逮捕、勾留、起訴された。そうすると、被告大阪府は、原告らが違法な取調べを受け、違法に得られた供述を証拠として身体拘束されたこと等で生じた精神的苦痛につき賠償責任を負う」

 日本国民救援会大阪府本部と「大阪地裁所長オヤジ狩り事件の国賠請求を支援する会」は、1月20日の判決を受けて、大阪弁護士会館で、熱気あふれる、喜びと嬉し涙の国賠判決勝利報告集会を開催しました。70人の支援者で会場は満員となり、テレビ各社の報道カメラマンも撮影に入りました。藤本敦史さんら5人がそろって会場に入ると、待ち構えていたテレビカメラマンも一斉に撮影を開始、また、今か今かと待っていた70人の支援者のみなさんから「よく頑張った」「勝ったぞ」のお祝いの言葉もあり、割れんばかりの大きな拍手が沸き起こりました。
  5人から支援者のみなさんからお礼と引き続きのご支援を求める挨拶がありました。
  藤本敦史さんは「弁護士のみなさんや支援してくれた方々のおかげで、今日の勝利があります。ありがとうございました。賠償させたのは良かったが、謝ってほしかった。僕の心の中は晴れたわけではない。冤罪を生む警察の取調べが改善されるまで自分たちのたたかいも終わらない。これからも冤罪に苦しむみなさんと共に頑張っていきたい。確定させるまで引き続きご支援よろしくお願いします」の挨拶があり、支援者のみなさんから大きな拍手がありました。
  4人の弁護士のみなさんから判決の内容の報告があり、支援者の方からお祝いと激励の言葉が続きました。日本国民救援会大阪本部事務局長の姫野さんは「今回の判決は、無念を晴らすためにたたかってきた、大きな成果であることは間違いない。弁護士のみなさんの裁判での活躍、支援する会や全国の国民救援会で取り組んできた署名は、団体281筆、個人1万3820筆、裁判所前や街頭宣伝で約3万枚のチラシを配布して府民に知らせる行動をしてきたから、裁判所を動かした。弁護団も画期的な勝利と言っている。これからは、大阪府・橋下知事に控訴をさせない2週間のたたかいがあります。画期的な判決を確定させるために、最後まで頑張りましょう」と述べました。
  その後私たちは、大阪府・橋下知事に対する「控訴断念を求める要請書」署名に取り組み、1月24日から控訴期限の2月3日まで、連日、全国から寄せられた要請書署名を持って、大阪府庁と大阪府警に「控訴を断念せよ」と訴えてきました。要請行動に延べ51人が参加、1708通の署名を提出しました。1月31日に大阪府庁の近くの谷町一丁目の交差点で13人が参加して、風が冷たい中、早朝街頭宣伝を行い、国民救援会の宣伝カーから出勤するサラリーマンに「大阪府・橋下知事は、1月20日の大阪地裁の国賠判決を真摯に受け入れて下さい」と訴えて、チラシ400枚を配布し市民にご協力を呼びかけました。
  不当にも大阪府は控訴しました。私たちは国賠訴訟第一審判決を確定させるために引き続き取り組みを進めていきます。

*「大阪地裁所長オヤジ狩り事件の国賠請求を支援する会」の情報は「再審・えん罪事件全国連絡会」のホームページで紹介されていますので、ご案内します。こちら