未来の社会を創る「法教育」  
2010年5月24日
梅田比奈子さん(小学校教員)

 社会科を中心に授業研究してきた私は、いつも「子どもには、自分が社会を創っていくという思いをもってほしい。」「みんなが幸せな社会を創っていくためには、どうしたらいいかを考えてほしい。」と思ってきました。そんな私が出合ったのが法教育だったのです。
法教育に出合った時、これは、主権者を育てる教育だと思いました。「ルールを作り、評価し、変えていく。」「事実に基づいて判断し、違った考えを受け入れ、よりよいものを構築していく。」等、今まで私が大事に考えてきたことがここにありました。そして、振り返ってみると、学校の教育活動の様々な場面で、法教育の考え方を活かすことが、子どもたちをよりよい主権者に育てていくために大切なことではないかと思いました。
それでは、実際にどのような実践を行ってきたのか、いくつか紹介したいと思います。
まず、ルールを考える学習。これは、今まで「法教育」と出合う前から行っていたのですが、宿泊体験や校庭の使い方、あるいは学級での遊びなどのルールを子どもたち自身が考え、不都合がある時は、変えるということを様々な場面で行いました。宿泊体験では、なぜ、そう決めていくのかということを明確にしながら、持ち物や約束なども子どもたちが話し合って決めました。また、丁度新聞で「18歳を成人とすること」が話題になった時には、成人とは何なのかということを調べ、「18歳を成人とすることをどうやって決めることがいいことなのか。」と議論しました。そこでは、自分の未来と結びつけて考える意見や「そうする目的が分からなければ軽率に判断できない。」等の意見が出されました。また、「議会」や「議員を選ぶ」ということがどういう意味をもつことなのかについても考えていけたと思います。その他に、プライバシーについても法務省の小学校教材をベースに実践するなど様々な方向から実践を考え、行ってきました。時には、法曹関係の専門家にも授業に入ってもらい、様々な示唆をいただいたこともあります。
こうした実践の中で、子どもたちは、学習の教材として与えられたことだけでなく、自分の生活に引き寄せて様々な課題について考えていきました。そして、学級の中で話し合いながらみんなで考えを作り出していくことの大切さを感じていったのです。つまり、法教育を実践することがその子どもの生き方につながると同時に、子どもたちが関わり合いながら学習を構築することの意義を感じていったといえるでしょう。そして、それこそがこれからの社会を創る子どもたちにとって、必要な力の一つだと思います。つまり、「法教育」は、これから大人になっていく子どもたちにとって、もっと言えば未来の社会を創る主権者・市民にとって必要な教育といえます。
ところが、教育現場の中では、未だ「法教育」の認知度は低いと言わざるをえません。そして、「法」という名のもと、本格的には中学生から学べばいいと思われがちです。実際、実践者を見ても中学校や高校の教員が多くなっているのも、こういったことからでしょう。けれども、先に述べたように、「法教育」で育てる力は、人にとって必要なことであり、これは、人間が社会的な存在である以上、小さい頃から発達段階に応じて身につけていかなければならないことです。ですから、「法教育」は、学校だけでなく、家庭においても行われなくてはならないことですし、そうすることが関係性の薄くなったといわれる社会を再構築するための一つの手段だと考えます。そのためには、まずは教育現場である学校から、何を実践し、どう発信していくかが大切なことです。残念ながら、学校現場でも法教育の実践は広がっているとはいいきれません。しかし、身近な教育活動や今まで行ってきた授業をもう一度法教育の視点で捉えなおし、実践することで子どもたちは確実に変わり、何より教師も変わると思います。新しいことを増やすのではなく、今やっていることを、視点を変えて見直すことの大事さを発信すること、またそれと同時に教科、領域等の学習内容とリンクさせた形での法教育の実践方法を示していくことが「法教育」の実践者を(少しずつであるかもしれませんが)増やすことにつながると思います。そして実践することで、子どもも大人も当たり前だと思っていたことから、多くのことを学ぶのです。私は、それが、私たちの社会をよりよいものにしていく大事な一歩だと考えます。